弊社創業130周年を記念し、皆様への日頃の感謝をこめて、シンポジウムを開催いたしました。
 
 平成24年10月7日(日)13:00~16:00
 唐津市高齢者ふれあい会館「りふれ」
 
開会挨拶 宮島清一
 ひとが食べ物を口に含んだときに発する「おいしい!」という言葉は、とても意味深い言葉です。ひとが生きて成長するには、いろんな栄養素をバランスよく含んだ食材が必要であり、それらが食べやすく消化されやすい状態で食卓に供されるとき、ひとはそれを「おいしい!」と感じるのでしょう。幼い頃から親しんだ味、「おふくろの味」が好きだという人は、味覚を通じてふるさとの食文化への理解と尊敬を持った人でしょう。「おいしい」という感覚にはそうした文化的な要因もあります。食事の環境も影響します。快適な空間で、心を許せる家族や仲間と囲む食卓もまた、「おいしさ」のお膳立てのひとつです。そうしたいろんな要素が紡ぎだす「おいしさ」を感じる体験の数だけ、ひとは幸せになるのだと思います。
(宮島醤油株式会社
代表取締役社長)
 日本の料理を、郷土の料理をもっとおいしいものにするために、私たちは今日のシンポジウムを企画しました。日本料理を専門に研究し、その革新に取り組んでおられる先生、発酵微生物学の先生、食品栄養化学の先生をお招きして、各々の立場から日本料理の良さと今後のあり方について語っていただきます。また、今日は特に大切なお客様として、唐津を代表する老舗旅館の女将さんお二人に登壇していただきます。唐津の豊富な食材を使った料理のお話、地域の伝統料理のこと、そして何より、旅館で日々実践しておられる「おもてなし」について、興味深いお話が伺えることと思います。今日のお話を聴いて、皆さんがおいしい料理の良さを今まで以上に感じ、ご家庭でも、お店でも、もっとおいしい料理に挑戦していただければと思います。
 
 
講演【1】  「日本料理の未来戦略」
山崎英恵 先生(京都大学大学院農学研究科)
 健康、おいしさ、食糧自給率、様々な面から見て、日本人にとって最も健全な食事はやはり和食(日本料理)である、と私は思います。それはなぜか?また、食をめぐる諸問題を解決するために日本料理はどんな未来戦略を考えていけばいいのか?本シンポジウムでは、現在我々大学研究者と京都の料理人が取り組んでいるいくつかの活動について、ご紹介したいと思います。
(1)飽食の時代の日本の食事情と食を取り巻く問題
 食糧自給率の低下、生活習慣病の増加が問題になっています。原因はいろいろですが、私たちが日本の国土で栽培、飼育しにくいもの、日本人の遺伝的体質に合わないものを食べすぎていることも大きな要因です。脂っぽいものや甘いものの誘惑に負けない、もっとおいしい日本料理を開発して広めましょう。
(2)伝統的な日本料理のおいしさを教える(京都大学学生へのダシ事業)
 このプログラムは「ダシを知る」講義(20分)と「ダシを味わう」実演講義(70分)で構成されています。参加した学生は一流の料理人による実演を見学しながら、昆布ダシから鰹・昆布の合わせダシのへ味わいの変化を体験し、最後に各料亭のお椀で吸い物を味わいます。
 参加後のアンケート調査では、本格的な天然ダシを味わうことで、日本料理の存在意義や食文化の継承について考えさせられたという回答が多くよせられ、和食を健康面からだけでなく異なる側面から観察するきっかけを与えられているようです。
(3)次世代の日本料理を考える基盤を作る(日本料理ラボラトリー)
 大学の実験室と料亭の厨房を使い、料理人と研究者が革新的な日本料理の発展を目指して共同研究活動を行っています。ラボラトリーでは、料理を構成する様々な事象を科学的に理解し、個々のテーマが持つ意味を深く掘り下げ、おいしい日本料理を創成するための新しい基盤を作り上げてようとしています。
 
講演【2】  「発酵食品の魅力」
加藤富民雄(宮島醤油株式会社研究顧問、佐賀大学名誉教授)
 人は食べ物から体を作る栄養素やエネルギー源を摂らなければ生きてゆけません。そして、食べ物は安全で、美味しく、体に良いものが望まれます。食べ物に微生物が働いてそれらの機能を高めたものが発酵食品です。
 発酵食品には清酒、ビール、ワイン、焼酎、醤油、味噌、納豆、酢、漬物など沢山のものがあります。ここではこれらの発酵食品に対する微生物の関与についてお話しし、各々の食品がどのように魅力アップされているかを知って頂きたいと思います。
 発酵食品の魅力は(1)食材の保存性が高い(2)栄養価や消化性が高い(3)美味しい(4)多様性に富む(5)健康に良い(6)自宅でも作る事ができること、ではないでしょうか。発酵食品は微生物の働きで作られたものであり、微生物の存在が知られていなかった昔から、人がいかに上手に微生物を利用してきたかの証であると思います。特に「黄色コウジカビ(Aspergillus oryzae)」は日本独特のカビであり、これを甘酒、清酒、醤油、味噌、かつおぶしなど、食品づくりに巧みに活用してきたことから、日本の「国菌」と呼ばれています。コウジ(麹あるいは糀)を食品に活用することはとても大切なことです。
 
 
パネル討論
 講演者2人に加え、唐津の和風旅館から2人の女将に登壇して頂きました。柳田晃良先生(西九州大学教授、佐賀大学名誉教授)に司会をお願いし、唐津の料理の特徴、おもてなし、食育についてお話しをお聞きしました。
 
立花史子さん(水野旅館女将)

 昭和28年、紙問屋の別荘だった建物を譲り受けて旅館を創業。唐津藩初代藩主、寺沢公が約400年前、名護屋城から当地に移し築いた武家屋敷門がお客様をお迎えします。
 玄界灘でとれる海の幸の素材の良さをなるべく活かした料理にしています。旅館内に海水をひいた生簀を備えており、「とんさんなます(殿様刺身)」、「千越(せんごし)大漁盛」が代表的な料理です。
 伝統的な味を大切にしながら、時代のニーズにあわせた料理を提供していきたい。水野旅館も日本料理の未来に貢献できるよう頑張ります。
 (立花史子さんのご主人である研一郎さんは、日本醤油協会が優れた醤油の使い手を顕彰する「醤油名匠」の第1回受賞者です。会場では、受賞作の調理の様子がビデオで紹介されました。)
 
 
大河内はるみさん(旅館洋々閣女将)

 明治26年に創業し、119年を迎える老舗旅館。大正のはじめに拡張、全面改築。100年の風雪に耐え、今も大正元年の建物が9割を占めています。
 旅館内に唐津焼のギャラリーを併設しており、シンプルな器に新鮮な食材を盛り込むことを心掛けています。
 また、11月の唐津くんちで振舞う大きな「あらの丸煮」は、宿泊客の皆様にとても喜んで頂いています。日本的なおもてなしを実践し、海外からの人気も高く、毎年訪れる方もいらっしゃいます。
 唐津の新鮮な食材と、味噌、醤油に感謝しつつ、120年、130年と頑張っていきたいと思います。
 
 
 会場の皆さんを交えた討論が行われました。聴衆として参加された、佐賀県の古川康知事からは次のような質問がありました。パネリストの発言要旨を含めて紹介します。
 「山崎先生が京都でされていることは素晴らしいが、素材に恵まれた佐賀県では、これからどういったことをやっていけばよいのでしょうか?小さなうちから、若いうちから日本料理のおいしさをわかってもらうには、どんなことをやればよいのでしょうか?」
 
山崎英恵 先生

 食べ物は、味、匂いなど、五感で味わうものです。味には、実は大別すれば5つ(甘味、酸味、苦味、塩味、うま味)しかありません。シンプルな入力情報です。懐かしい感じ、おいしそうな感じというのは、味よりはむしろ匂いによって伝わる面が大きい。子どもと一緒に食べ、おいしい匂いを子どもに刷り込んでいき、そのおいしい体験を続けることで、基盤を作る。そういう意味では、大人、親世代の食育が大事です。子どもは自然についてくると思います。
 唐津の2人の女将さんは素材を活かすということを強調されました。これは私が普段から接している京都の料理人さんにも共通することです。良い日本料理の文化を伝承するには、その土地の素材を活かすことも大切なことだと思います。
 
加藤富民雄

 食べ物に対して、伝統的なことを誰かが守らなければいけません。
 例えば、立派な料亭に行く機会を作る。本物を食べて、こういうものが本物だということを小さい時に経験すれば、自分が大人になったときに、子どもにまた伝えていくのではないでしょうか。
 発酵食品の味や匂いも刷り込みの効果が大きいです。その意味で幼い頃からの体験が大切でしょう。
 
シンポジウムのまとめ
柳田晃良 先生
(西九州大学教授、佐賀大学名誉教授)


 日本人は、お米と大豆(お味噌)の文化で数千年の間、生きてきました。栄養化学的に見ますと、デンプンとタンパク質の供給源として、この二つの組み合わせは重要です。
 宮島醤油の130年という節目なので、130年前を振り返りますと、日本人の平均寿命は50歳弱でした。それが、今は男性が78歳、女性が82歳くらいです。この130年の間、日本人は伝統の料理をうまく利用しながら、新しい材料を取り入れて改良し、世界でもまれな健康と長寿を獲得してきたのです。
 その意味で革新的な日本料理を作り出す、だしを基軸にしながら日本料理を考えるというのは、非常に重要なことです。そして、日本的な、伝統的な食品をいかに守っていくかと同時に、そういったものを我々庶民の生活のなかにどう取り入れていくかも大切です。また、料理の仕方や味をいかに子どもたちに残すか、我々にはそういう非常に重要な仕事がたくさんあります。そういうことを、このシンポジウムで提示できたのではないかと思います。どうもありがとうございました。
 
受付と司会スタッフです。
普段は開発、企画など別々の職場で働いています。
 
ご来場くださった皆様に、記念の醤油をお贈りしました。