走らんか監査役
【栃木県】

123区(連載160回) 矢板~塩谷

全国各地で人が熊に襲われる被害が報じられている。栃木県も例外ではなく、今日行く“おしらじの滝”でも熊の目撃情報があったというので注意喚起されている。矢板市内といっても車で北方の山中に入り、車を停めてから徒歩で山道をしばらく歩いたところにあるという滝を目指す。矢板市によるクマ出没注意の看板も立てられているのだが、よく見ると看板の上と下は何かにひっかかれたような、あるいはかじられたような跡がある。おそらく、くまのプーさんなのかリラックマなのかあるいはテディベアか、はたまたくまモンが出てきて「なんだこんなもの!」とばかりに傷つけたに違いない。ところで、熊のキャラクターはどうしてかわいいのばかりなのだろう。


実は、ここまで来る道中で野生の鹿と猿に遭遇した。鹿、猿と来たら次は熊に違いないだろう、と冗談ながら冗談じゃないぞ、と多少は緊張するのだが、私もそれなりに対策は講じている。熊に関する書籍はしっかり読んでいる。一冊はアイヌ民族最後の狩人と言われる柿崎等氏が語った本、もう一冊は実際に北海道で起きた事件をもとに吉村昭氏が書いた、熊を題材にした短編集だ。これらの本から私が学んだのは、熊の優れた知能をけっして軽んじてはならない、と肝に銘じることだ。
 具体的な備えとしては、碓氷峠を越える際に購入した熊除けの鈴を忘れずに持参している。さらに、これは熊の専門家から聞いた話で、空になったペットボトルをつぶしたり、元に戻したりを繰り返すと、片手で簡単に大きな音を立てられるので有効だ、というのでこれもやってみる。
 というわけで、滝に向かって山道を歩く。チリンチリン、ぐしゃっ、チリンチリン、ペコパコとまぁ、うるさい音をたてながら誰もいない目的地に到着する。おしらじの滝は、滝そのものよりも滝壺が見もので、なんとも心洗われる美しく深い青色をしている。矢板市内の温泉施設では、この青い滝壺を再現した“おしらじ塩冷やし麺”という、なんと!スープが青い!!ラーメンが食べられる。実は本日の帰りに食して、その澄んだ色とおいしさに感動したのだった。滝の写真もラーメンの写真も撮ったのだが、ここには載せないので、興味ある方はネットで検索してください。

ところで、無事ラーメンを食べて帰ったということは熊には遭遇しなかった、ということだ。


 塩谷町には尚仁沢という湧水がある。私はこれを“しょうじんざわ”と読むことをつい最近知ったのだが、尚仁沢という地名はずっと以前から知っていた。それは同名の酒があるからだ。栃木県の日本酒は全国的にはそれほど有名ではないのだが、なかなかおいしい酒が多い。
その湧水は山奥に入ったところにあるらしいのだが、湧水を直接引いている尚仁沢名水パークまでは行ってみる。私は湧水そのものに関心はなかったのだが、地元の人たちが大きなポリタンクを両手に水を汲みにひっきりなしに来ていて大盛況でありました。私は、といえば酒は買ったものの「水はいいや」と飲まずに帰ったのでした。

本日出会った動物2種と出会わなかった動物1種

参考文献:「クマにあったらどうするか」 柿崎等 ちくま文庫
     「熊撃ち」 吉村昭 ちくま文庫

2024年8月

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