128区(連載165回) 高田~直江津
上越市高田の街中にある“瞽女(ごぜ)ミュージアム高田”に立ち寄る。私はこの言葉を漢字の読みすら知らなかったのだが、瞽女とは、三味線をたずさえて語り物などを唄いながら各地を歩いた「盲目の女旅芸人」のこと。かつては東北を除いて全国各地にこの職業があり、ここ越前高田で昭和40年代ころまで活動していたのが最後だったとのこと。展示されている資料を見ると、私が生まれた佐賀県の唐津や今住んでいる千葉県の柏や流山にもこの職業があったそうだ。
昔は栄養・衛生・医療など、どの分野も今より劣っていて、後天的に視力を失う人も多かったようだが、そんな女性の職業として瞽女が存在していたとは、初めて知ることばかりだ。
途中、ちょっと寄り道をして、上杉謙信が築城した春日山城へ行く。上越市埋蔵文化財センターにて春日山城と高田城、それに直江津にある福島城の歴史を学んだのだが、それはともかく当時の変装をした武将隊という人たちが歓迎してくれた。建物の前には、よく道路工事の現場でパイプを支えている資材(正式名称は知らないが)の謙信版があって、これまたかわいく歓迎してくれている。
さらに寄り道をして、上越の一宮である居多神社や五智国分寺へ行ったのだが、そしてそして、ついに日本海に出た。はるばる太平洋側から本州を横断して、これが夢にまで見た(ちょっと大げさで、うそです)日本海だ。
日本海を見たついでに、ではなく魚好きとしてははずせない“上越市立水族博物館うみがたり”に行く。
ペンギンに餌をやる時間です、という案内を受けてどれどれと日本海が見える池に行くと、飼育員さんが投げ入れる魚をめがけてペンギンが我先にと水に飛び込んでいる。崖の上から真っ先に海へ飛び込むペンギンのことから転じて、未知の分野に最初に挑む人をファーストペンギンと称することがある(数年前の朝ドラで使われて有名になった言葉だ)。見ると一匹のペンギンが、どうしても飛び込む勇気がなく、いつまでもいじいじうろうろと迷っていて見物客の失笑と声援を受けている。もし私がペンギンに生まれ変わることがあるならば、勇敢なファーストペンギンではなく、きっとあんなペンギンになるに違いない、とまるで我が身を見ているようで、がんばれがんばれ、ほら、そこで飛びこむのだ、と応援したのでした。
その後どうなったかというと、そのペンギンはとうとう水に飛び込む勇気が出ず、飼育員さんから陸上で魚をもらったのでした。おいおい、厳しい自然界にはあんなやさしい飼育員さんはいないのだからね。しっかり自分で生きる努力をしないとだめだよ。と、これはペンギンに言っているのか、自分自身に言い聞かせているのか。
帰路、直江津駅にはこの水族館を宣伝する水槽があって、ちょうど飼育員さんが来て水替えと清掃をしているところだった。お疲れ様です。
東京日本橋を出発して、埼玉県、群馬県、最大の難関だった碓氷峠の山道を越えて長野県へ、さらに野尻湖から新潟県へ、新幹線なら数時間、車でも半日あれば行ける道のりを自力で歩きました。徒歩でなければ知ることのできない経験をして、その土地の魅力を味わいました。
2025年1月