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私の似顔絵
(辛亥新春、昭和58年に
描いてもらいました。) |
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会長コラムへようこそ。
平成24年、2012年に入って1ヶ月が経過しました。昨年の東日本大震災のあと、野田内閣となり、今年こそは・・・という雰囲気が生まれつつあります。
その中に「絆」という言葉がよく使われているように感じます。今月はその絆について考えてみました。 |
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(一)絆、きずな・・・マスコミの伝えるもの |
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1月17日の読売新聞は、 |
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「大災害をうけ、家族間、地域間などで、絆の大切さを思い出す人が多くなる。このためか、昨年末は、例年以上に仲間や家族で食べる鍋に人気が集まり、すき焼き、しゃぶしゃぶが好評だった」 |
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と伝える。 |
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また、年末の京都清水寺の恒例の漢字は「絆」だった。 |
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(二)絆の語源とその意味 |
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絆、きずなは、牛、馬、鷹などをつなぎとめている綱のことだが、その語源は諸説あり、定説はない。 |
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・クビツナ 首綱 |
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・ヒキツナ 引綱(ヒを略) |
・キツナ 騎綱 |
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・ツナギツナ 繋綱 |
・ツヨキツナ 強綱 |
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漢字の語源(小学館) |
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次に、「きずな、絆、紲」の本来の意味は、 |
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(1)馬・犬・鷹など、動物をつなぎとめる綱。 |
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(2)断つにしのびない恩愛、離れがたい情実、ほだし(つなぎとめること、人情にひかれ束縛されること)、係累、緊縛。 |
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とある。(広辞苑) |
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(三)文献をたどる。~梁塵秘抄、平家物語~ |
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上記(1)の文献としては「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」の中に、 |
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「御厩(みまや)の隅なる飼ひ猿は、『絆』離れて、さぞ遊ぶ、木に登り」とあり、この絆は上述の動物をつなぎとめる意味の絆である。 |
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なお、この頃の飼い猿は、神猿として、山王(日吉神社)の使者と考えられていた。 |
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上記(2)の文献としては、「平家物語巻7 維盛 都落」の章に「絆」がみられる。 |
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木曽義仲の勢に押された平家一門は、寿永2年(1183年)7月、ついに西国に向けて、都落ちを決意する。妻子とともに都落ちする平家一族の中にあって、維盛(重盛の長男、清盛の孫)は、自らの考えにもとづき、後髪をひかれながら妻子を残して単身で都落ちする。 |
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「維盛は中門を出て、鎧を着て、馬に乗らんとする。若公、姫君(維盛の子女)走り出て、父の鎧の袖に取りつき『これはいったいどこへいかれるのですか。我も参らむ、我もゆかん』とめんめん(面々、おのおの)にしたひなき給ふにぞ、憂き世のきづな(絆)とおぼえ、維盛は悲しみ嘆きを抑えるすべもなく・・・」と。 |
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この場合の“絆”は、前述の(2)の「断つことのできぬ親子恩愛の情を、「絆」と表現している。 |
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ちなみに、当時の仏教の信仰心から見れば、夫婦親子への愛情は煩悩として、発心(ほっしん:悟りを得ようとする心を起こすこと)の障害と考えられていた。平家物語では、維盛は、自らの信仰心と妻子への恩愛との相克に迷う悲劇の人として描かれている。 |
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これらのことから察すると、この時代から、単なる動物と人間を結ぶ綱「キズナ」は、親子・夫婦等の人間の恩愛・連帯感を表現する言葉へと変化していたことになる。 |
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(四)「人間の絆」サマセット・モーム作 |
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平成24年に入り、福岡に出張、博多駅ビルの丸善書店を覗いた。キチンと整理された文庫本のコーナーに立つと、突然、アッ、「人間の絆」、サマセット・モームという本があったと思い出した。偶然にも、眼前に、岩波文庫、「モーム作、行方昭夫訳、上中下」が並んでいた。 |
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とりあえず、下巻を購入する。 |
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以下、訳者の解説をお借りして、「絆」を考えてみた。 |
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「人間の絆」の原書名は“Of Human Bondage”。 |
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絆の原書名は“Bondage”、直訳すれば束縛、奴隷の意である。 |
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この小説は、主人公フィリップが自らの身体的な欠陥を克服し、早く両親を亡くす不運にもめげず、精神的に成長していく過程を描く、自伝的色彩の強い教養小説である。 |
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主人公は、一人、いや複数の女性と愛欲関係に溺れ、相手の容貌の美しさ、性的魅力に惹かれ、愛することになる。しかし、徐々にその相手が自分の愛に値しないと知りつつも、恋心を忘れえない、という“隷属(れいぞく)”に落ち込む。それ故に自らに怒りを覚え、かつ自分の解放を願う。 |
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このような意味での“Bondage”なのである。 |
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サマセット・モーム“Of Human Bondage”の出版は、1915年。 |
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この長編小説の日本語の初訳は、1950、51、52年(昭和25、26、27年)、中野好夫訳、三笠書房刊。その後は5人の方々が全訳されている。 |
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初訳の中野好夫氏が、「人間の絆」と訳された時の「絆」にはおそらく隷属、束縛の意味が含まれていたであろう。 |
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従って、モームの「人間の絆」という邦訳は、日本ではすっかり定着しているので、そのままとし、副題として「人間の束縛」と書き添えてあればと思われる。 |
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(五)むすび |
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おそらく、われわれは、きずなと言い、絆という漢字を見て、牛・馬・鳥を繋ぎとめる綱を連想する人はほとんどおられないだろう。ましてや束縛、隷属という意味を含んでいたといっても信用してくれそうもない。 |
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やはり、絆からは、親子、夫婦の愛情のつながりを思い浮かべるだろう。 |
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友人、先輩、後輩、同じ職場に働いた人同志・・・、さらに、苦労を共にした人・・・、人と人とのつながり、それも温かい雰囲気の連帯へと膨らむ感じの漢字へと変貌してるのでは・・・。 |
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言葉や漢字は、長い間には、その意味が消滅したり、変化している。 |
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「絆」も独り歩きしている感、なきにしもあらずです。 |
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皆さんとともに、「絆」を大切にして、すばらしい漢字にしましょう。 |
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参考文献: |
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「平家物語 下 新日本古典文学大系14」
梶原正昭 山下宏明 校注 岩波書店 |
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「平家物語 鑑賞日本古典文学19巻」 冨倉徳次郎 編 |
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「人間の絆」 サマセット・モーム 著 行方昭夫 訳 岩波文庫 |
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