【日光御成道 南行】
25区  幸手~和戸
 
 前回の小山までの区間で日光西街道を終えて、江戸に向かってさらに南下するにあたり、埼玉県幸手(さって)市までは往路の日光街道(7区10区)を逆行するだけなので省略させていただいて、幸手から始まる日光御成道を南行することにする。
 
 
 各地の花の名所を訪れても、ことごとく季節をはずしてばかり、と前回書いたが、幸手には権現堂堤という名所がある。往路で通ったのは夏の盛りで何も花が咲いていなかったのだが、例年より桜の開花が早い3月末、幸手市観光協会HPの開花情報を確認すると、満開!とある。小雨がぱらつくあいにくの天気だが、行くならば今しかない。幸手駅から進むべき方向とは逆で、遠回りになるのだが、あえて寄り道をする。
 おみごと。こういうのを、絵に描いたような風景と言うのだろう。しかし、絵にも描けない美しさという童謡の歌詞もあるので、いったいどちらの表現が適切か、ぜひとも画家の意見を聞いてみたい。
 
 
 さて、幸手は南京玉すだれ、ではなく桜の名所があるだけあって、マンホール(制水弁)も桜柄のカラフルなもので、市が桜にかけている思いが感じられる。
 
 商店街には、これまた桜をモチーフにした街灯があって、そこに「らき☆すた」と書いた小旗が下げられている。往路の日光街道でもこれが気になって、同伴者と、
 「らきすた、て何だろうね。」
 「商店街のラッキースタンプのことじゃないの。」
という会話をして納得したのだが、後日その理解はまちがいであることがわかった。
 「らき☆すた」とは幸手市出身の漫画家、美水かがみ氏によるアニメのタイトルであった。アニメでは、この地域の建物や風景がほぼ忠実に描かれているため、実物を見たいというマニア達がこの地を訪れているらしい。そういえば、アニメに登場する神社で、若者の参拝客が急に増えたことがニュースになっていた。私の役に立たない雑学知識も、アキバ系アニメまでは惜しくもカバーしきれておらず、残念。
 
 
 市内の神明神社には、たにし不動尊(石碑には螺不動とある)が祀られており、説明によると、眼病の人がタニシを描いた絵馬を奉納して祈願すればご利益があるとのことなのだが、タニシがどうして眼病に効くのだろうか、という疑問が湧く。
 というわけで調べてみた。タニシを漢字で書いた「螺」は、「つぶ」、「つぶり」と読むことがあり、「粒」と同源で小さく丸いもの(特に貝)を意味する。「つぶり」は、かたつむり(かたつぶりから転じた)の語源でもある。ここからは多分に私の推測だが、「つぶり」の語尾が変化して「つぶら」、「つぶらな」となると、これに続く単語は「瞳」しか思い浮かばない。つまり、「螺」からは健康な眼を強く想起されることから、眼病治癒祈願の対象になったのではないだろうか。絵馬にタニシを2個並べて描くのも両眼を意識してのことだろう。
 と、わかったつぶり(つもり)であるが、このあたりの解釈には諸説あり、あくまで私個人の理解だと目をつぶってご了承いただきたい。
 
 また、境内には何かを抱えた狛犬がいて、これは狛犬愛好家としては見過ごせない。タニシにしては巨大すぎるし、サザエ(ちなみに漢字では栄螺)にしてもまだ大きすぎる。どうやら、これは牡丹の花らしい。いわゆる唐獅子牡丹の図柄である。
 
 
 日光御成道は、日光街道の脇街道(今ならばバイパスだな。)として、江戸から幸手まで将軍の日光参拝のために整備された街道である。「将軍さまのおな~り~。」の声が響いていたのだろう。
 街道に立派な枝ぶりの松の木が立っている。杉戸町による説明板に「昭和30年頃はまだ松並木として残っていたが徐々に減り続け、今ではわずかに残る松が往時を偲ばせる唯一のものとなってしまった。」とある。並木道の名残としてほんとうに唯一、一本だけになってしまった松が今も歴史を強く訴えている。
 
 
 大落古利根川にかかる橋を渡る。往路で、この川の読みがわからず、大きいラッコが生息しているから大ラッコ利根川だろう、と半ば真面目に考えていたことを思い出す。
 今回は、コースとは逆方向でお花見をしたために走行距離は短く、東武伊勢崎線和戸駅(埼玉県宮代町)に着いたところで終了する。
 
 
 ところで、私のホームコース江戸川の土手も今、一年で一番きれいな時期を迎えている。冒頭の権現堂堤に負けず劣らず、走っても走ってもどこまでも菜の花の道が続く。桜にも菜の花(植物名はアブラナ)にも言えることだが、これほど特定の種だけが栄え、しかもそれを愛でるのは、生物の多様性という生態学的観点からはいかがなものであろうか。しかし、そんな無粋な考えは封印して、この美しい風景の中を疾走できる特権を菜の花の香りとともに満喫している。
 また、菜の花は食用になるし、種は食用油の原料にもなるのに、これほど大量の植物資源がまったく活用されていないのは、これから世界的な食糧危機が到来しようかという時代にあって、まことにもったいない話である。実は、昨年ここで種を勝手に採取して自宅のプランターに蒔いたところ、たくさんの芽が出て今春は我が家の食卓に登場している。趣味が実益につながり、まことにめでたいことだ。
 
2013年4月
参考文献 : 「新語源辞典」 講談社
         「新潮日本語漢字辞典」 新潮社
 
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