【日光御成道 南行】
32区  秋葉原~日本橋
 
 日光往復の長い旅を終え、本日はいよいよ日本橋へ帰還する日だ。箱根駅伝ならば、「いよいよ最終区に入りました!!」と興奮したアナウンサーが絶叫するところだが、私はいたって静かに出発する。人通りの多い都心を走ると周りに迷惑なので、今日は短い距離をのんびり散歩だ。
 秋葉原の電気街を抜けると神田川。観光客を乗せた遊覧船が、静かな川面をのんびりと過ぎてゆくのを眺めながら万世橋をわたる。左に見える赤レンガの建物は、JR中央線の神田とお茶の水の間にある、昔の万世橋駅跡だ。かつてはこの横に交通博物館があったが大宮に移転、駅跡は最近再開発されて飲食店街になったようなので、様子を見ようと思ったのだが、まだ開店前で入れなかった。
 万世橋をわたると神田に入るが、街道に沿って正確に住所をたどると神田須田町、神田淡路町、神田小川町、神田美土代町を経て神田錦町に至る。そもそも神田という地名の由来は、伊勢神宮に奉納する稲をつくる田があったから、と神田美土代町の案内板ではじめて知る。
 「江戸っ子だってねぇ。」「神田の生まれよ。」そんな雰囲気を感じさせる老舗が今も営業しているが、創業130年になろうというそば屋には、開店前から長い行列ができていて驚く。この道中では、街道沿いのそば屋で昼食、ということも多かったのだが、正直に言うと、私は関東のかけそばのつゆにはどうにもなじめない。そもそも、九州人が上京して遭遇する最大の衝撃は、「うどん・そばのつゆが黒い!」というものだが、ほんとに、田舎者が高層ビルの林立する風景に慣れ、複雑な地下鉄路線を難なく乗り継ぎできるようになっても、黒いつゆに出会うたびに、自分はここにいるべき人間ではないのかもしれない、と、気分は暗く、どんぶりの底へと深く沈んでいくのだ。
 皇居そばの三井物産本社ビルを訪ねる。この会社の池からカルガモの親子が皇居のお堀にお引越し、というニュースが毎年のように報じられるので、一般の人が入れるのかどうかも知らずに行ってみたのだが、今は工事中で、いずれにしろ所在がわからなかった。
 ビルの横には平将門の首塚がある。平将門は常陸国、下総国(現在の茨城県、千葉県)を中心に活躍した平安時代の武将。死後は、さらし首にされたのだが、首が京都から江戸まで飛んできた、との言い伝えはさておき、その後の出来事がおそろしい。関東大震災後この地に大蔵省の仮庁舎が建てられたのだが、大臣をはじめ14人が死亡。戦後には進駐軍が整地していたところ、ブルドーザーが横転して2人死傷。昭和30年代には銀行のビルが建てられたが行員が次々に病に倒れるなどなど、たびたび災いが起きて、今は丁重にまつられている。
 首塚の横には蛙の石像が2体、そして参拝客が勝手に持ってきたに違いない陶器の蛙が10個ほどにぎやかに並んでいる。これで霊が鎮まっていてくれればよいのだが、まさかど思うが、将門が冗談の通じない性格で、怒った霊がかえってきたらどうするのだ。
 殿様が日光墓参をした経路をなぞる旅であるからには、皇居に帰着報告をせねばなるまいと思い、大手門から入って東御苑を歩かせていただく。歴史ある建造物がすばらしいことは言うまでもないが、皇居の自然で目についたのは見事な迷彩柄の樹木。生物の進化にはすべて何らかの意味があるはず。だとすれば、この木は何のために幹をこんな模様にするのだろうか。林の中で姿をかくすため、としか思えないが。
 この木はスズカケノキの一種らしい。プラタナスという名前もよく聞くが、それはスズカケノキの学名で、古代ギリシャの哲学者プラトンがこの木陰で説を語ったことに由来するそうだ。プラトンが哲学を語ったからその名にちなんでプラタナス、では、彼が哲学ではなく愛を語っていたらプラトン的な愛、プラトニックラブだな。
 東京駅丸の内口に到着。唐津出身の辰野金吾が設計した駅舎は、3年前の出発時は工事中だったが、一昨年完成している。南北にあるドーム内部の天井は8角形で、その頂点部分に干支の十二支をひとつずつ描いたレリーフがあるのだが、天井が高すぎて、どれが何なのかよくわからない。ところで、8角形の頂点に十二支を飾ろうとすると、どうしたって4個余る。実は、東京駅に飾れなかった4種の干支は、同じく辰野が設計した佐賀県武雄温泉の楼門の天井に描かれている、ということが昨年報じられて話題になった。
 いよいよ終着点の日本橋に到着する。2011年1月に出発してから3年、実に32区間の細切れに分けた旅もここで終わりだ。
 日本橋は東京から各地へ伸びる国道の起点であり、その地点を示す「道路原標」が橋のたもとにあるのだが、実はそれは歩行者に見せるためのレプリカで、本物は橋のど真ん中、中央部のセンターライン上にあることを先日、日本橋に詳しい方に案内してもらってはじめて知った。交通量が多くて近づけないが、なるほどあれか、と確認する。
 これにて、走らんか!日光往復編を終わる。
 さて来月は・・・・・・。
 
2014年1月
 
参考文献 : 平将門 千葉県立関宿城博物館
         日本大百科全書 小学館
 
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