【醤油の産地へ 北行】
35区  亀有~松戸
 
 出発してまもなく、ビルの傍らにある亀の像を見つける。なぜここに亀が有るのか。それは、ここが亀有だからだ。地名の由来は、もともとは亀無や亀梨だったのだが、せっかく縁起ものの亀が「なし」ではもったいないので亀「あり」にしたそうだ。そんないい加減なことで良いのだろうか。
 ミドリガメという名で売られている500円玉ほどの大きさの亀(本名はミシシッピアカミミガメ)が、池などに放たれて日本在来の亀を駆逐していることが最近問題になっているが、実は我が家でもその亀を3匹(名前をチャー・シュー・メンという)飼って20年ほどになる。雨戸を開け閉めする音に反応して餌を欲しがるので、耳は聴こえているようだ。
 亀に聴覚があることは、生物学者のGeorgeとMaryが18xx年に「亀に耳あり ジョージにメアリ」という論文を発表している。(壁に耳あり障子に目あり、です。まじめに読んだ方、申し訳ありません。)
 亀有から柴又へ向かって進むのだが、この地域はどういう経緯で街が形成されたのか、道路が縦・横に加えて斜めにも走っていて、いたる所に六つ角がある。興味深いところだが、この魔の三角地帯みたいな街並のせいで、進む方向を45度間違ってけっこうな遠回りをしてしまった。
 ところで、さすが亀有だけあって街道の松の幹も美しい亀甲模様だ。
 フーテンの寅さんで有名な柴又帝釈天を参拝する。実は映画「男はつらいよ」には、弊社の商品がほんのわずかだが登場している。シリーズ第28作目(1981年)で、マドンナ役の音無美紀子さんが大分県の祭りの屋台でたこ焼きを売っているシーンで、置かれているソースの樽が弊社の商標である亀甲宮だ。
 登場している、と言うのもはばかられるほどのわずかな関係だが、これはうちの社長が自宅でたまたま見ていて発見したもので、この写真も社長が記念に撮影したものだ。
 個人的には、ソース樽はともかく手前にあるアラレちゃんのおもちゃが懐かしい。
 帝釈天の裏手には寅さん記念館があるが、以前入ったことがあるので今回は通過し、ここから矢切の渡しで江戸川を渡る。
 演歌“矢切の渡し”がヒットしたのはいつ頃だっただろうか、と調べてみると1982(昭和57)年にちあきなおみ、翌1983年に細川たかしが歌っている。もう30年以上も前のことなのかと、しみじみと歳月の流れを感じる。その渡しが現存することは前々から知っていて、一度は乗ってみたいと思っていたので、大げさに言うと30年来の念願が本日やっとかなう。
 ちょうど、向こう岸から舟が到着するところで、これこそ渡りに舟、と船頭さんに料金200円也を払って手漕ぎの舟に乗り込む。ここには待合室も切符売場も時刻表もなく、客が来たら出発するというシステムらしい。船頭さんは、第何種船舶営業免許とか何かそういう資格が必要なのだろうか、どうなのだろうか、と考えている間もなく舟は岸を離れる。
 櫓をこぐ水音だけが静かに聞こえる、実にのんびりした10分ほどの船旅であった。
 川を渡ると千葉県の松戸で、ここにも係員はいないのだが、かわいい熊のような番犬のクマ君6歳が迎えてくれた。なぜ名前と年齢がわかるかというと、自己紹介の張り紙がしてあるからなのだが、甲斐犬の父とコーギーの母を持つハーフだとのこと。野性味あふれる黒灰色の毛並を父から、愛敬ある胴長短足の体型を母からみごとに受け継いでいる。
 甲斐犬とコーギーという意外な組み合わせをよく考えついたものだ、とその発想に感心するのだが、ひょっとすると、飼い主が予測できなかった偶発的かつ衝動的な行為によって生じた結果かもしれない。(いやそんなことはない、と甲斐犬とコーギーは会見で抗議~するかも。)
 船が着いたところは一面に畑が広がっているだけで陸路の交通の便が悪く、こちらに渡って来た人の大部分は、また200円を払って柴又へ戻っているようだ。もちろん私は先へ進むのだが、ここは伊藤左千夫の小説“野菊の墓”の舞台で、野菊のこみちという立札があるので、それに沿って畑の中を行く。たぶん季節には野菊の花が咲くのだろうが、今日のところは何の変哲もない農道あるいはあぜ道だ。
 そんな農道でも観察すれば収穫はあるものだ。いや、畑の農作物を勝手に収穫したのではなく、はじめてキャベツの花を見たという収穫だ。これがキャベツの花だという確証はないのだが、見慣れたキャベツと並んでいるので、たぶん収穫されずに育ったキャベツの花なのだろう。かつて第26区で大根の花を発見したのに続く、野菜の花を見つけたシリーズの2回目だ。キャベツはアブラナ科で、菜の花と同じく茎を伸ばして黄色の花を咲かせるのだ。
 本日の終点、松戸の市街地に入る。松戸は宿場町で、人工河川である坂川に沿って昔ながらの町並みを見ることができる、と予備知識をもって街を歩いたのだが、たしかにかつて宿場があったあたりに歴史ある建物が数軒残っているのだが、新しいマンションが立ち並ぶ普通の都市になっていて、いささか残念に思いつつ終わる。
2014年5月
 
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