【醤油の産地へ 北行】
47区  取手~佐貫
 
 英語のつづりをローマ字のように読むと新しい発見があるものだ。たとえばユニリーバというグローバル企業があるが、私は“Unilever”という社名を目にするたびに、こってりと濃厚なあじわいで日本酒にもワインにも合いそうな“うにレバー”という酒の肴を空想してしまう。あるいはまた、ビートルズの数ある名曲のひとつでカーペンターズもカバーしていた“Ticket to ride”を、「チケットとりで」と読むと、それは取手駅の切符売場のことになってしまう。
 というわけで今回は茨城県の取手です。
 明暦元年1655年創業の老舗、田中酒造店の店頭には大小の酒樽が置いてある。昔は醤油も酒も樽で仕込んでいて、私も子供の頃は自宅の隣にあった造り酒屋の桶に、土足で入って遊んだ記憶がある。今考えるとずいぶん不衛生なことをしたものだ。ところで、この桶の内側には糸がびっしりと張られているのだが、これは装飾なのか、それとも樽の形を整えるための意図があるものなのだろうか。よくわからないが美しい。この地域は北関東から発した河川の水が豊富な平地なので、古くから米作りが盛んで、したがって酒造りも盛んに行われていたようだ。
 酒を造ると副産物として酒粕ができるが、ここでは隣にこれまた老舗の奈良漬製造元、新六本店がある。酒屋でできた酒粕で奈良漬屋をはじめるとは、まことに理にかなった立地といえる。奈良漬といえば奈良としか思い浮かばなかったが、このお店には瓜だけでなく、生姜や牛蒡や椎茸など地元の農産物を漬けた奈良漬があり、買って帰ったがそれぞれに美味でありました。
 それにしても、酒の粕が粕漬や粕汁として活用されているのにくらべ、醤油の粕がほとんど見向きもされていないのは、醤油業界に身を置くものとしてまことに遺憾である。まあ、味噌っかすよりはましだが。
 取手という地名の由来は「砦」だとされていて、にわかに信じ難かったのだが、実際にこの地を踏んでみると、平坦な関東平野の中にあってこの市の中心部だけが小高い山の上にあり、坂道が多い。なるほど、このあたりを治めようとした武将が、砦を築くならここ、と考えたのももっともだと納得する。
 坂道を下ったところにビール工場があって、出荷待ちの製品が外から見える。予約していれば工場見学とビールの試飲もできたようだが、本日の目的は違うので残念ながら通過する。ところで工場脇を進みながら撮った写真の右半分は工場の構内、左側は公道だ、では両側をフェンスで仕切られたこの道は工場の中なのか公道なのか。どちらともとれるが、見た感じでは工場敷地の外周を歩行者と自転車のために供出して地域に貢献しているのか、と思う。
 工場の入口には、ここで製造している一番なんとかというビールにちなんで「茨城はいちばんがいっぱい」というポスターが貼ってあり、茨城県が全国一位である項目が紹介されている。それによると茨城県はビールの生産量が日本一なのだそうだ。そういえば同県内で開催される守谷ハーフマラソンに出場したときには、コース沿いにスーパーなんとかのビール工場があって、多くの従業員が参加しているらしく工場前でにぎやかな応援がされていた。
 他に、茨城県は耕地面積の割合、工場立地面積、1住宅当たりの住宅敷地面積などが全国一位だそうだ。平野が多く水が豊かで、大消費地の東京に近いので農業が盛んになり、多くの工場が立地し、それによって住民は潤って広い家に住んでいる、とまあ良いことずくめの県のようだ。
 酒、奈良漬、ビールときて、次なる工場は何をつくっているのかだが、これは一目瞭然、工場の屋根の上にある巨大なカップ麺からおいしそうな湯気が上がっている。工場で使った水蒸気をただ逃がすだけでなく、こんな演出をするとはなかなか憎い会社である。
 今日見かけた地名について、まず「酒詰」。酒屋とビール工場を見た後だけに、まったくふさわしい地名だ。昔このあたりで酒を詰めていたのだろう。それとも、酒で人生に行き詰った意味か。
 続いて「小浮気」。ちょっとした浮気と解釈して良いのだろうか。それがどうして地名になったのだろうか。ひょっとしてここが問題が発覚した現場なのだろうか。「小」ならば許されるのだろうか。疑問は膨らむが、たまたまこの写真を撮ったタイミングで人生相談を考えるならば、このまままっすぐ突き進むのは危険だから方向を変えろ、と信号は語っている。
2015年5月
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