【醤油の産地へ 北行】
48区  佐貫~牛久
 
 茨城県龍ケ崎市に入る。
 茨城県は“き”が濁らない“いばらき”県か、“ぎ”と濁る“いばらぎ”県かという問題がある。濁らないのが正解なのだが、この問題のやっかいなところは、実際に声に出してみると、濁らずに発音するのは不自然で、どうしても“いばらぎ”と濁ってしまいがちなことだ。だから、つい正解が間違っているのではないかと思ってしまうのだが、そういう漢字の「読み」問題に加えて、ここ“りゅうがさき”には漢字の「書き」問題も存在するので、とてもややこしい。
 市の名前は龍ケ崎市なのだが、市の中心部にある駅は竜ヶ崎駅だ。龍と竜の違いだけでなく、“が”は大きな“ケ”か、小さな“ヶ”なのかの違いがある。そもそも、“が”の発音をなぜ“ケ”や“ヶ”と表記するのか、という国語問題はさておき、地図を見ていると市の施設や郵便局は龍ケ崎、警察や県立高校は竜ヶ崎、と二つの表記の混在ぶりがおもしろい。市のホームページには、このりゅうがさき問題について、こうなったりゆうがさきに書いてあり、「正式には龍ケ崎」と人事行政課によるていねいな説明が掲載されている。
 ところで、市境の標識で見た龍ケ崎の市章は何を図案化したのか、しばし考えてわかった。龍が3本の爪で玉をつかんでいるところだ。これほど単純な図形で龍を表現できるとはすばらしい。
 JR佐貫駅から牛久沼のほとりを北へ向かうのだが、この牛久沼は地理的にも名前的にも牛久市かと思いきや、龍ケ崎市に属している。龍ケ崎市がなんとしても沼をわが市に、とその昔主張したのかどうか、駅前の案内図でも市のキャラクターまいりゅう君が「牛久沼は全域が龍ケ崎市だよ。」と誇らしげに説明している。なぜそれほどまでに沼にこだわったのか。龍ケ崎と牛久という地名を並べてみれば、沼に棲んでいてふさわしいのは龍だからだろう。水牛ならば沼が似合うが。
 牛久沼に龍がいたかどうかはわからないが、うなぎがいたことは確かで、ここはうな丼発祥の地だそうだ。しかしながら、日本うなぎの絶滅が危惧される今では、もう獲れなくなっているのだろう。国道沿いにうなぎ料理を出す日本料理店が数軒並んでいるが、一番大きな建物の料亭兼結婚式場は閉店して廃墟と化していて残念である。
 
 うなぎに加えて、この沼にはかっぱがいたらしい。かっぱの小径と名の付いた田舎道を進み、かっぱの碑を見て進む。かっぱについての私の知識は、水泳が得意なこと(日本水泳連盟公式キャラクターぱちゃぽ)、NHKに出演していること(アニメはなかっぱ)、日本酒を飲むこと(かっぱ黄桜)、きゅうりが好物で回転すし店ではかっぱ巻きばかり食べること、食べたあとの皿を頭にのせて会計をごまかそうとすること(誤解です)くらいだが、向学のために百科事典をひくと、『水陸両棲の妖怪。陸上でも力は強いが、水中にあるときは人はもちろんのこと牛馬でさえ引っ張り込んで、肛門に手を入れ尻玉を抜いたり生き血を吸ったりする。』とある。なんとおそろしい。ところで尻玉とはなんだとさらに調べると、腹の中にあるとされる架空の臓器らしい。ゆるキャラ風にかわいいイメージで描かれることの多いかっぱだが、実はこんなに恐ろしい生き物だったのだ。
 牛久市はいたる所にかっぱがあるが、観光あやめ園には人生に絶望したかのように肩を落として座り込むかっぱ像あり、犬に吠えられて立ちすくむ子かっぱ像あり、かっぱ界の幸福度はあまり高くないとお察しする。
 
 いっぽう、マンホールのふたに描かれたかっぱはきゅうりを持って楽しそうだ。そして、道案内の標識の上には得体の知れぬモニュメントが乗っているのだが、これは何なのだろうか。これもかっぱなのか正体不明である。もっとも、私はかっぱを見たことがないので、これがかっぱだ、と言われたらそれを信用するしかないのだが。
 牛久で代表的な醸造産業といえば醤油でも清酒でもなくワインと地ビールだ。1903年(明治36年)に神谷傳兵衛氏(ちなみに弊社の創業者は七世宮島傳兵衞)によって創設されたワイン醸造場がシャトー神谷として今も営業中だ。醸造場の中心となる建物は東日本大震災で被災して現在修復中だが。
 ところで、りゅうがさき龍・竜問題が生じた理由だが、龍の字は人名用漢字ではあったが常用漢字でなかったため、常用漢字だった竜を使った表記が定着している例が多いからだ。と、これで一件落着と思いきや、さらに詳しくは龍の一画目である左上の短い縦棒(もしくは点)は、正しくは横棒と定められていて・・・、と国の漢字政策の変遷という迷路にはまってしまったので、これ以上は深入りせずに終了する。
2015年6月
参考:「日本大百科全書」小学館
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