【醤油の産地へ 東行】
56区  白井~千葉ニュータウン
 
 白井駅から出発してしばらく進んだところで“そろばん博物館”という看板を見つけて立ち止まる。予期せぬところでこういう小さな博物館や記念館を見かけると、入るべきかどうか悩むものだ。自分がさして興味のない分野の展示を見るために数百円の入場料と時間を費やしても、きっとつまらないだろうと思う。しかし一方で、今日この機会を逃したら二度とここを訪れることはないに違いないが、後悔することはないか、と。
さんざん迷った末に入館したのだが、正解だった。そろばんの歴史と文化についての展示で、世界各地にそろばんがあること、日本でも地方によって少しずつ仕様の違うそろばんがあったことを知ったが、なによりもこの博物館を設立し運営している方の、そろばんにかける熱意に圧倒された。今では手にすることがほとんどなくなったそろばんだが、こういう人によって文化は伝承されている。
 街道から少し奥まったところに庚申塔が並んでいる。赤く塗られているものを見るのは初めてだが、このあたりの風習なのだろうか。藪の中に整列している様子はかなり不気味である。
 庚申塔はかつての民間信仰の名残で関東ではよく見られるが、少しだけ説明を加えよう。伝承によると人の体内には三匹の虫が潜んでおり、庚申(かのえさる)の日になると人の身体を抜け出して、天帝にその人の悪事を通告する。そこで、通告されては困る心当たりのある人は、虫に脱走する隙を与えないよう、庚申の夜は寝ずに過ごすというものだ。
 身中にいる三匹の虫は三尸(さんし)と呼ばれているのだが、“尸”はワープロで何と打てば出るのだろうかと漢和辞典をひくと、この部首は“しかばね”という。“尸”を使った字の代表をよりによって“屍(しかばね)”なんかにすることはないだろうに。この部首を使った字は他にもあるのだから。たとえば尻とか、尿とか、屁とか。う~む。
 本日通過した白井市は新興住宅地でもあるが、一歩住宅地をはずれるとまだまだ田舎でもある。宿場らしい昔の建物も残っているし、民家の軒下には畳屋さんの看板が。電話番号が有線5桁、とこれはいつの時代のものだろう。
 このあたりの地名は漢字一字だったり読めなかったりで、かつてここはどんな土地でどうしてこの地名を付けたのだろう、と想像をかきたてられる。帰路、このあたりの歴史を知ろうと白井市資料館に寄ったところ、白井市の地名を考察した研究冊子があったので、これを読めば由来がわかると思ったのだが、ことはそれほど簡単ではなかった。
 資料を閲覧してわかったことを列挙すると、“根”は台地のへりで水源に近い土地をそう呼ぶことがあるようだが、詳しくはわからない。“復”の由来はわからない。“神々廻(ししばと読む)”については、神々が廻る土地だというのは後からつけた解釈で、“ししば”と呼ばれる地名があって神々廻という漢字をあてたのか、それとも漢字が先にあってそれをししばと読むようになったのか、どちらかわからない。というわけで、よくわからないというのが結論だ。
 ひょっとして、根と復は「根気ヨク反復シテ働ケ」、あるいは「根ニモッテ復讐スルベカラズ」から一字ずつとったのか。
2016年2月
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