【醤油の産地へ 東行】
63区  成田~成田空港
 
 せっかく成田まで来たのだから、成田空港まで足を伸ばそうと思う。成田空港へ行く交通手段としては、JR線や京成線をはじめ、渋滞で遅れると理不尽なリムジンバスや、羽田と成田の空港間をあくせく移動する人のためのアクセス特急などがあって、自分の足で空港へ行こうなどと考える変わり者はほとんどいないだろう。
 徒歩による成田空港行を敢行するにあたっては一抹の不安がある。成田空港は警備が厳しく、かつては検問があった。検問は廃止されたというニュースを見た記憶はあるが、はたして旅行者とは思えない身なりの歩行者が怪しまれずにすんなりと入れるのだろうか。また、空港へ入る道路が自動車専用道路ならば歩行者は通行禁止か、禁止ではないとしても歩道がなくて、とんでもなく危険なのではないだろうか。
 空港へ向かう田舎道は歩道が整備されているものの、歩く人はほとんどいないと思われ、舗装のすきまからは草が伸び放題で天然の中央分離帯になっている。結局、この後も歩道のある道が空港まで続いていて、歩行者通行止めの関門には遭遇せずに空港までたどり着くことはできた。
 道路わきの業者の敷地には、検問所で使われていたのであろう詰所が多数置いてある。ふだんは使われていないが、いざという時には出動するのだろう。野ざらしではあるが、きちんと保管されていて備えに怠りはなさそうだ。
 成田空港の中央から南の部分の地名は成田市三里塚という。三里塚と聞けば、私と同世代以上の人は、空港建設に反対する人々による“三里塚闘争”を思い浮かべるだろう。
ところで、以前このコーナーでワルナスビ(悪茄子)という植物を取りあげたことがある。なんともかわいそうな名前だが、命名者である植物学者牧野富太郎氏(1862~1957)の著作を読むと、氏がこの植物を見つけたのはここ三里塚なのだそうだ。今ちょうど薄紫がかった白色の花を咲かせているが、これはまさしく本場もの、三里塚のワルナスビだ。
 牧野博士は、移植したワルナスビがどんどん増殖するのに手を焼いて、本気で怒っていたようだ。記述を少し引用する。「見かけによらず悪草で(中略)それでも綺麗な花が咲くとか見事な実がなるとかすればともかくだが、花も実もなんら観るに足らないヤクザものだから仕方ない、こんな草を負いこんだら災難だ。(中略)この始末の悪い草、何にも利用のない害草に悪ナスビとはうってつけた佳名であると思っている。」
 なんとまあ、悪意に満ち満ちた文章だ。悪いものを悪いと言って何が悪い、と悪びれた様子はまったくない。植物学者にヤクザ者とまで言われたかわいそうなワルナスビ。ひどい名前をつけられたからといって不満を訴えることもできず、これからも不遇な名前で憎まれ者として生きていくのだ。頑張れワルナスビ。
 空港の敷地に入るにあたっては、検問は受けないまでもゲートがあって警備員が立っている。恐るおそる「ターミナルビルに行きたいのですが、行けますか」と尋ねると、どうぞ、行けますよと通される。やれやれこれで一安心。
 空港に着いた、と安心して気が緩んだのが間違いで、ここからが遠かった。広い敷地内に空港・航空機関連の会社の建物や物流施設があって、どこにターミナルビルがあるのかわからない。そもそも歩いて行く人がいることが想定されていないので案内表示も地図もなく、不審者と思われないかとびくびくしつつ、道に迷いつつ、建物ごとに立っている警備員に道を尋ねてやっと空港第一ターミナルに到着する。仕事でもスポーツでも最後まで安心せず、集中を切らしてはいけない、と学んだ空港敷地であった。
 せっかくなので最上階の展望デッキまで上がって空港を一望する。それではここから国際線に乗って来月はどこの国を走ろうか。とはなりませぬ。
2016年9月
参考文献:「植物一日一題」 牧野富太郎 ちくま学芸文庫
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