自粛中 海の生物の続き再び
不要不急の外出自粛が呼びかけられているので、私も遠出をして街道を進むことを自粛しています。そのかわり、以前2回(112回・113回)にわたって書いた海の生物についての続きを書くことにしよう。感染の拡大が収まるのが先か、ネタが尽きるのが先か、前者になることを祈りつつ今月分をスタートします。
6.棘皮動物 ヒトデ(海星)
つい1年ほど前まで日本はまずまずの好景気で、いろいろな業種でヒトデ不足が報じられていた。しかし、今やヒトデが話題になるのは、緊急事態宣言が出ているのにヒトデが多い、というニュースばかりだ。ヒトデは多すぎても足りなくても良くないが、では、ヒトデがいなくなったらどうなるのか。そんなのはヒトデなしだ。
ところで、ヒトデという名前は5本の触手を人の手になぞらえたものだが、漢字では海星と書く。ちなみにヒトデの英名はstar fish、つまり星魚だ。魚じゃないだろ!とつっこみたくなるのはさておき、星にイメージを重ねたのは日本も西洋も同じだ。
ヒトデを星になぞらえるのは、星をヒトデの形の“☆”と描くからだが、では、古くは点や小さな円で描かれていた星が、いつから☆になったのだろう。西洋なら宗教画や星座の図、日本なら戯画・漫画あたりからだろうが、それが比較的新しい描写ならば、ヒトデを海星あるいはstar fishと名付けたのも古くはないのだろう。☆star誕生はいつだったのだろう。
☆がいつから一般的になったのかと関連するのだが、国旗のデザインに☆を使っている国はたいへん多い。星が☆であることが、ほぼ世界中の共通認識になっていることも驚きだが、何かと国際問題になるアメリカ、中国、北朝鮮、それに旧ソ連もそうだ。この際、☆同好会を結成して仲良くしたらどうなのだ(そんなに簡単ではない)。
ここからちょっと真面目な話をすると、ヒトデの形である五角形にはおもしろい特徴があって、植物に多いが動物に少ない、そして、正確に描くのは難しいが作るのは簡単、という図形なのだ。
まず、植物では梅や桜をはじめ、正五角形(花びらが5枚)の花は数多くあるが、動物で五角形を見つけようとすると、ヒトデやウニ(球形だが、じつはヒトデの形で触手が丸まった状態)などの棘皮動物を除くとほとんどない。そして、正五角形を定規とコンパスだけを使って描こうとすると、それは可能ではあるのだがかなり難しい。しかし帯状の紙、たとえば箸袋を平らに結べば、結び目はなんと、あんなに難しかった正五角形が簡単にできるではないか。
私はかつて、この五角形の面白さにはまってしまったことがあって、話は数学の分野に飛んで黄金比だフィボナッチ数列だ、と続くのだが、ここではやめておこう。
7.魚類 リュウグウノツカイ(竜宮の使い)
リュウグウノツカイは、タチウオを大きくしたような銀色で細長い深海魚で、めったにお目にかかることはないが、ときどき岸に打ち上げられたり網にかかったりして、珍しいことなので報道される。おそらく、竜宮城にお住まいの乙姫お母さんからはじめてのおつかいを頼まれたのが、途中で迷子になってしまったのだろう。
写真は2014年に唐津沖の定置網でとれたもので、地元の産物を販売する唐津うまかもん市場にて売りものの魚といっしょに並べられていたもの。値札がついていないので売る気はなさそうなのだが、体長約3mの魚体を収めるために、発泡スチロールの箱を6個つなぎ合わせているところに魚屋さんの熱意と苦労のほどが感じられる。売らなかったとしたら、この後どうしたのだろう。食べましたか?
竜宮といえば、浦島太郎と亀の話が有名だ。浦島は助けた亀に連れられて竜宮城に行くまでにどうして溺れなかったのだろうか、とは誰もが抱く疑問だと思うのだが、作家の浅田次郎氏はさらに、乙姫さまのごちそうはどんな料理だったのだろう、まさか舞い踊っているタイやヒラメを食べたのだろうか、はたまた浦島太郎と乙姫さまの関係はどうだったのか、とまで考察されている。たしかに、肉も野菜もない海底で食べるものといえば魚介類が中心だ。文字通りタイやヒラメの踊り食いをしたのだろうか。
また、ニッポンではスッポン以外の亀を食する習慣がないが、海外には海亀のスープというメニューがある。浦島がそろそろ家に帰りたいと思って、送ってくれる亀を探していたら、「あらっ、その亀さんならきのうスープにしてお出ししましたけど」と言われて愕然とする、なんてこともあったかもしれない。
浦島太郎の話は、竜宮城での楽しい暮らしから戻ると、地上では数十年ないし数百年が経っていたという結末になるのだが、そんなあり得ないと思われる現象も、亀が光速に近い速さで進む宇宙船であれば、アインシュタインの特殊相対性理論によって説明できるらしい。らしい、というのはもちろん私は説明できないからです。
2021年2月
【参考文献】