走らんか副社長
【長野県】

107区(連載144回) 善光寺~小布施

この連載も今回で144回、途中でコロナによる自粛中断があったものの、実質12年間続いたことになる。もう、こうなったらどこまでも行くぞ、というか、やめるタイミングが自分でもわからなくなっているのが現状だ。ともかく、今回は、長野の善光寺から北国街道をそれて東へ向かって須坂市へ、そこから北上して小布施町まで行く。どうしてわざわざ遠回りすることになったのかというと、小布施町はおいしい栗の和菓子が有名だそうで、ここまで来たらどうしても小布施に行きたい、と同伴者が言うのでそうしたまでだ。

途中で某会社の前を通りがかると、なんと敷地内をニワトリたちが散歩している。私が近づいても、とり乱すことなくおっとりしたものだ。そして感心したことに、門は開け放たれているにもかかわらず、けっして敷地の外に出ようとはしないのだ。きっと飼い主から「ここから一歩でも外に出たら、人は君たちのことをおいしそうな鶏肉が歩いているとしか見ないから、すぐに丸焼きにされてしまうよ」と言い聞かされているのだろう。

飼い主であるこの会社が何の会社だったのか忘れてしまったが、養鶏場ではなかったし、最近増えている唐揚げ専門店でもなかったことは確かだ。どうか、この人なつっこい鳥たちが丸焼きにされないことを祈る。


須坂市は果物の産地として有名で、ぶどう、りんご、なし、などなどが採れる“果物王国”だそうだ。千曲川を渡る長い橋の上から、見渡す限り河川敷に果樹園が広がっている。棚のようなものがあるので、これはぶどうの木なのか、と思うのだが自信はない。この後も果樹園のそばを通るのだが、果実はもちろん葉もついていない木では、私にはそれが何の木なのか、悲しいかなよくわからない。


春になって、果物の花はまだ咲いていないが、道端の草たちは花を咲かせている。ここには青と黄色の花が隣り合っていて、これはウクライナの国旗と同じ配色ではないか。黄色はアブラナ(菜の花)で、青い方はたぶんハナダイコン(花大根)またはダイコンナバナ(大根菜花)と呼ばれる植物だが、大根ではない。大根の花は白いので、この草と間違うはずはないのだが、どうしてこんな名前が付けられたのかが謎だ。その理由を考えるに、①日本の植物研究史に汚点として残る痛恨の間違い、②どれだけの人がこれはおかしいと気づくか、わざと間違った冗談、③貴重な食糧である大根の種を隠蔽するために周到に計画された偽装作戦。はてさて、どれも可能性はあると思う。

植物の名前がわからなくてもやもやしている時、街路樹について解説してある札があるのはありがたい。この木の名前はコノテガシワ。なるほど、還暦を過ぎると皮膚に張りがなくなるのはいたしかたないことで、じっと手を見ると皺(しわ)が。なるほど、“この手が皺”だと言いたいのだな。

この後、小布施に着いて栗の和菓子をおいしくいただいた。小布施は古い情緒が残る町で、葛飾北斎の美術館もあるので、せっかくなので鑑賞した。北斎の美術館は東京にもあって、数年前の東京夢舞いマラソンに出場した時、コースわきにあったその美術館に(この大会は記録を競うレースではないので)寄ったことがある。その時に一番印象に残っているのは、私の横にいた高齢の女性が「このごろは、北斎と広重の区別もつかない人がいるのよねえ」とつぶやいていたこと。「えっ、私もそうですけど」と思わず答えそうになった。

2023年4月

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