109区(連載146回) 善光寺~牟礼
今回は、長野県内の北国街道を北へ向かう旅を再開しよう。長野市の善光寺から出発して今回の目的地は長野県の北部、しなの鉄道北しなの線の牟礼駅。住所で言うと長野県上水内郡飯綱町、まったくなじみのない土地だ。事前に地図を見ても街道がどんな道なのか、どの程度の山道なのかがわからなくて不安だったのだが、けっして山の中ではなく、路線バスも走っている道だった。
とはいえ、長野市の市街地を抜けるとさっそく上り坂が始まり、上ったり下ったり、けっこうなアップダウンのあるコースだった。途中では道路をヘビが横断していたり、毛虫が歩いていたりで、なかなか変化に富んでいたし(写真があるのだが、気持ち悪いという声多数につき掲載しない)、終盤には久しく見ることがなかった一里塚もあって街道っぽい雰囲気を味わうこともできた。
長野県内の街道を歩いていて(このところ、ほとんど走っていないのがばればれだが)気持ち良いのは、道で会う人が老人も子供も「こんにちは~」と声をかけてくれること。私の格好はトレーニングウェアにリュックを背負っていて、地元の人間でないことは一目でわかるだろう。そんな旅人に声をかけてくれるとは、都会ではありえないありがたいことだ。
前回の小布施もそうだったが、街道沿いに果樹園が多い。なんだか小さな実がなっていて、これは何だろう。たぶん、りんごではないかと思うのだが自信はない。農作業をしている女性がいたので、同伴者がたずねたところ、やはり「りんごですよ」という答えだった。
私は、果物としてのりんごはもちろん知っていても、それがどんな木で、どんな花が咲いて、どう実が大きくなっていくのかを知らなかった。食べ物のもとの姿を知っているかといえば、最近の子どもは魚を切身でしか食べないので、魚の姿を知らない、とか魚は切身の姿で泳いでいると思っている、などという人がいる。それはいささか嘘が混じっていると思うのだが、りんごの花や小さな実を知らない私には、子どもが魚の本当の姿を知らないからと言って批判する資格はない。ちなみに、りんごの花はうっすらピンク色のかわいい花です。
帰りに、しなの鉄道の三才駅に寄る。私は知らなかったのだが、この駅は三歳児を連れた親子が記念写真を撮りに来るので有名なところだそうで、最近でも鉄道好きで知られるタレントが3歳の男児と撮った写真をSNSにアップしているようだ。ちょうど私が訪れた時にも「三歳になったので三才に来たよ~」と楽しそうな(少なくともお父さんは)親子連れが来ていた。
ここは三才だからいいのであって、もし六十七才(私のことです)などという駅名だったら話題にもならないだろう。いっそのこと百才という駅があれば、あの駅に行って写真を撮るまでは元気でいよう、という目標になっていいかもしれない。
2023年6月