走らんか監査役
【栃木県】

120区(連載157回) 大田原~那須

栃木県には那須と名のついた自治体が3つある。すでに通過した那須烏山市と、まだこれからの那須塩原市、そして今回の那須町だ。他の2つが市に昇格しているのに、本家であるはずの那須町はなすがまま、いや、なす町のままなのだが、市が町より偉いわけではなく、人口が多いことが必ずしも良いことでもない。と思って人口を調べてみたら、那須烏山市と那須町はどちらも24,000人台で、ほとんど変わらなかった。
 ところで、那須町はこのところ毎日のようにニュースに登場している。(2024年4月、那須町の河川敷で夫婦の焼損遺体が発見された事件で、複数の容疑者が次々に逮捕されている。)
 そんなことで有名になってしまった那須町だが、この町には福島県との県境の山があり、そこから広がる高原があってリゾート地になっている。そしてそんな観光地とは別に、古くから多くの歌が詠まれてきた風景が県の東北部、芦野や伊王野地区にはひっそりと存在している。まずは芦野の城跡に登ってみるが、眼下にはなんということもない田んぼの風景が広がっていて、これこそがいいのだと思う。その田んぼの中に、かつて松尾芭蕉をはじめ多くの歌人が立ち寄った遊行柳(ゆぎょうやなぎ)があり、柳の木とそれよりも大きなイチョウの大木が立っている。

イチョウの幹の中ほどからはいくつもの突起が出てぶら下がっている。これは、だらりと垂れ下がったその形状から乳(chichi)というのが正式名称らしいが、この名称を適切と思うかどうかのコメントはここでは避けよう。同じような形態で、乳とは逆に地中から出てくるものは呼吸根と呼ばれ、湿地帯などで根腐れを起こさないよう空気を取り入れるため、とされているが、乳の役割についてはよくわかっていないようだ。


左の写真がイチョウの乳(那須町遊行柳にて)。右は呼吸根で、この木はメタセコイアだと思っていたのだが、調べてみるとよく似ているが葉の付き方が違うラクウショウ(落羽松)のようだ(柏市柏の葉第2水辺公園にて)。
 芦野城址から下りたところにある那須歴史探訪館に行ってみる。私は訪れた先で資料館や博物館などにはできるだけ立ち寄るようにしていて、そこに展示されている資料は静かに見て回るのがマナーだと思っている。しかしながら時には、連れの人たちとああだこうだとしゃべりながら見ている人に遭遇することもある。今回もそうで、ご婦人方がぺちゃくちゃひそひそと話をしている声が耳に入って心穏やかに鑑賞する、というわけにはいかなかったのが残念だ。


那須町には黒田原というJR東北本線の駅がある。その南には大田原(おおたわら)市があるので、この駅は“くろたわら”だと思っていたのだが、正しくは“くろだはら”だった。地名は難しい。
その黒田原へ向かう国道には、同じ姿に剪定された木が両側に並んでいる。はたしてこれは何の姿を模したものなのか。人が手をあげて踊っている姿なのか、はたまた動物か、いや、おおたわらに行こうとおおわらわになっている人なのか、よくわからない。車を運転していると気になって前方不注意になってしまいそうだ、誰か教えてほしいものだ。


2024年5月

今回の走らんかスポット