走らんか監査役
【栃木県】

122区(連載159回) 那須塩原~矢板

いよいよ今回は那須塩原市から矢板市へ入る。矢板は私にとってたいへん関わりの深い市で、もう10年以上前になるが、矢板たかはらマラソン(ハーフ)に2回出場したことがある。交通規制がされていない幹線道路をだらだらと上り、りんご園が続く中を走って、最後は競技場への急坂を駆け上がるという、けっこう過酷なコースだ。
 そのゴール直前に矢板高校の前を通るのだが、この高校には栄養食物科がある。その生徒さんが地元特産のりんごを使ったカレーのレシピを考案して、実際に製造してくれるところを探している、という話が当社に飛び込んできて商品化したのが矢板商工会が販売する“あっぷるカレー”で、今も矢板市内の道の駅などで販売されている人気商品だ。
 この話には続きがあって、あっぷるカレーを発売した数年後に、同じ高校の生徒さんが今度はカレーパンを作りたいと言い出したのだ。なんでもつくります、という当社でもさすがにパンはできないので困ったのだが、矢板と宇都宮の間にあるさくら市で、障害者の就労を支援している施設がパンを焼いていただけることになって商品化し、矢板市内の道の駅で販売することが実現した。高校生がレシピを考え、当社がそのレシピでカレーソースを製造し、施設の方がカレーパンにして、地元商工会の支援を受けて、道の駅で高校生が販売する、そしてその収益はすべて施設へ還元する、という取組みが完成したのだ。
 これはすばらしいことだった、と自画自賛するのだが、高校との取組みの難しい点は、生徒が3年で卒業するだけでなく、熱心にやっていただいた先生も数年毎に異動があるので、取組みを継続するのがなかなか困難だということだ。カレーパンは今のところ一度限りになっているが、“あっぷるカレー”が継続して販売されていることはうれしいことだ。


私の義父(故人)は矢板で学校の教師であり、画家でもあった。今はほとんど使われていないのだが、矢板市のマスコット“ポッポちゃん”をデザインしたのが義父だ。矢板市の鳥であるキジバトをもとにしたもので、ゆるキャラのはしりというべきなのだが、その後、地元川崎城の城主であった塩谷朝業をモチーフにした“ともなりくん”が公式キャラクターとなっている。全国の自治体が競ってゆるキャラを制定してブームになる以前のことなので、“ポッポちゃん”はちょっと時代が早すぎたのだろうと思う。
 また、かつて矢板市文化会館にあった緞帳は、義父が描いた高原山(たかはらさん)の風景画をもとに制作されたものだったのだが、文化会館は老朽化のため建て替えられて、文化スポーツ複合施設として生まれ変わった。あの緞帳はどうなったのだろうか、たぶん処分されてしまったのだろうな。

かつて矢板市のキャラクターだったポッポちゃん

矢板は、前々回那須町で立ち寄った遊行柳と同じく、松尾芭蕉が奥の細道の道中で通った場所だ。この地で、かさねという名の女の子に会い「かさねとは 八重撫子の 名なるべし」という句が残っている。市内に流れる箒川にかかる橋がこの句にちなんで“かさね橋”と名付けられ、橋のたもとに句碑が立てられている。
 義父が生前に、この句碑のもとになる原画を描いたというので見に行ったことがある。今回、30数年ぶりに尋ねたのだが、本当にこれだったろうか、どうも違うようだなぁ、銅板はけっこう新しいような気がするしなぁ、となにせ記憶があいまいなのではっきりしたことが言えないのがもどかしい。


栃木県内全25市町をめぐる旅は今回で22市町が終わり、残すところ塩谷町、さくら市、上三川町の3つとなった。とちぎ愛の完結まであと少しがんばっぺ(んっ、これは茨城弁か)。

2024年7月

今回の走らんかスポット