53区 八柱~六実
松戸市の八柱から出発する。近くには東京都営八柱霊園があって、ここは千葉県なのになぜ都営の施設があるのだろうか、と少し疑問も感じるが、おそらく東京都内では広い敷地が確保できなくてここに来たのだろう。それに、亡くなった方の霊を数える単位には「柱」を使うので、たまたまかもしれないが、八柱という地名は霊園にふさわしいとも言える。最寄りの駅は私鉄の八柱(やばしら)駅かJRの新八柱(やはしら)駅。柱の読み方が濁るのか濁らないのかはっきりしないが、濁らないほうの駅のホームにはその名の通り柱が8本、どころではなく、ホーム上にも上下線のあいだにも多数整列している。
東へ向かう県道の交差点から一段下がったところに、子和清水という湧水がある。昔むかし、毎晩酔っ払って帰宅する父親を怪しんだ息子が後をつけてみると、父はここから湧いてくる酒を飲んでいた。ためしにその子が飲んでみたらただの水だった(子は清水)、という民話に基づいている。酒が出る湧水なら私も自宅に欲しいものだが、そもそも、父が飲んで酔っ払っている液体を子供が真似て飲むという物語の設定は、青少年の健全育成視点からよろしくないのでは、と思う。
それほどの観光スポットではないのだが、一茶の句碑や、人が水(酒)を飲むポーズの銅像があって整備されている。銅像は両手で水をすくって飲もうとしているのだが、誰かが白いカップを手に持たせている。なかなか親切、かつ遊び心のある人がいるものだ。これが盃ならさらに良かったのだが惜しい。
今も水が湧いているのだが、これは人工なのか、自然のものなのかがよくわからない。このあたりはなだらかな起伏があって、その中で低くなったところなので、水が湧いても不思議はないのだが、どうだろうか。
道は五香を経由して六実へ向かう。この地名は、明治時代にこの地域が農地として開拓された際、順番に数字を織り込んでつけられたもので、ここは5番目と6番目に開拓されたという意味。
その五香では、道路沿いに突然巨大な仏頭が出現する。お店の展示物としてこれほどインパクトのあるものはこれまでに見たことがない。仏壇仏具屋さんの工場で、製作途中なのか、試作品なのか、売り物なのか、ともかく最初に見たときは驚いたが、よく見るととてもやさしいお顔で行き交う車を見守っておられる。
スーパー裏手の道路に沿って土手が続いている。以前にも取り上げたことがあるが、千葉県北部にはかつて江戸幕府が軍馬を養成するためにつくった広大な牧場があって、馬を囲うための土手が、宅地化が進んだ今でも所どころに残っている。野馬土手もしくは野馬除土手と呼ばれているが、ここに立っている看板の松戸市による説明によると、軍馬だけでなく「荷役用の駄馬の供給源」だったと書いてある。
あのぅ、この説明を書かれた方、駄馬はないでしょう、駄馬は。それでは馬がかわいそうです。駄という言葉は、たとえば「私はホームページに駄文を連載しています。」というように、自らを謙遜する場合に使うものです。
「いや、あなたの場合は謙遜するまでもなく、事実として駄文だ。」との批判があるのは承知しております。
2015年11月