走らんか副社長
【栃木県】

110区(連載147回) 益子~市貝

今回は栃木県内を巡る旅の続きで、真岡鉄道の益子駅から出発しよう。焼物で有名な町だが、益子焼は江戸時代末期に始まり、当初は鉢や水がめなどの日用品が中心だったそうだ。そういえば群馬県から長野県へと碓氷峠を越える手前の横川駅でいただいた“峠の釜めし”の容器も益子焼だった。
 その、日用品だった益子焼の価値を芸術品へと高めたのが濱田庄司(1894~1978)で、彼が作陶の参考のために蒐集した品々を展示した益子参考館に行ってみる。制作の参考にしたものを集めたのだから“美術館”ではなく、“参考館”なのだ。陶芸の作品だけを見るのではなく、そこに至るまでの過程も知って欲しい、という作者の意図が感じられる。
 実際に使われていた登り窯は、まるでジブリの映画に登場しそうな巨大なイモムシのようでおもしろかったのだがそれはともかく、ちょうどラテンの工芸展が開催されており、展示されている中米の民芸品に見入ってしまう。文化に国境はないと言うが、濱田氏がいろいろな文化を参考にしていたことがわかる。だからこそその遺志を継いで、益子焼はこうあるべきだ、という枠にとらわれることなく若手の陶芸家が次々に出ているのだろう。

私は古代メキシコの文化が大好きで、ちょうどこの夏東京で展覧会が開かれているのでこれから見に行く予定だし、マヤ文明衰退の謎を古代の気候から探求している研究者の方々とも縁あってお付き合いさせていただいている。

四ツ屋一里塚

市貝町に入った所で、道路わきの草むらにマムシグサが生えている。私がこの植物を初めて見たのは日光街道の杉並木の中で、それ以来これを見かけるとついうれしくなってしまう。ちょうどマムシが鎌首をもたげた様子にそっくり(そんなところは見たことがないし、見たくもないが)とか、模様がマムシに似ている(本当に比べたことはないし、比べたくもないが)とか、名前の由来は良いイメージではないのだが、ともかく印象は強烈だ。

マムシグサとマムシ(のつもり)

本日の終点、市貝町の市塙(いちはな)駅は八角形の駅舎が粋な無人駅だった。ところで、前回おじゃました外池酒造さんの住所は益子町大字塙(はなわ)だったし、県北の那須烏山市には小塙(こばな)という駅もある。「塙」という字を分解すれば土が高いとなり、周囲より小高い場所、という意味だと思うのだが、益子の塙もここ市塙も、多少は高い場所かなと思うものの、それほどではない。どうして栃木県内には塙という、あまり一般的ではない文字の地名が多いのだろうか。ちなみに、塙という苗字は関東地方に多いそうで、芸能人のはなわ氏、塙氏兄弟も出身高校は佐賀県だが、生まれは関東だ。


茨城県から栃木県の南部を走る真岡鉄道は、土日限定でSLが運転されている。市塙駅ですれ違う際に出会ったのだが、カメラマンとしての心の準備が足りず、あわてて後ろからの撮影になってしまった。後ろ姿もまた良し、としよう。

2023年7月

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