124区(連載161回) 妙高高原~関山
東京を出発して、日本海を徒歩で見に行く旅を約1年ぶりに再開しよう。猛暑の夏も9月に入ったし、場所は長野県と新潟県の県境近くで標高の高いところだからもう大丈夫だろうと計画したのだが、今年(2024年)の夏はそんな甘いものではなかった。まだまだ真夏の勢いを保った太陽から容赦なく照りつける日差しを受ける旅となった。
真夏の暑さの中では想像するのが難しいのだが、ここ新潟県妙高市は豪雪地帯なのだ。旧街道沿いの家々の多くは、1階は車庫や倉庫などに使われており、玄関は外階段を上がった2階で、しかも2重扉になっている家が多い。そうではない家でも、1階の窓には横木が渡してあって雪の圧力から家を守るつくりになっている。あるいは雪おろしのために屋根に上がるはしごが備え付けられている家も多く、冬の暮らしの厳しさが感じられる。
そして道路わきで目につくのが背の高い消火栓だ。私が知っている消火栓は、道路わきの地面にあるものだが、ここでは少々の積雪では埋もれないように、地上2mほどの高さからも水が出るようになっている。
畑になにやら実のようなものが転がっている。これに似た光景を栃木県内でも見たことがあるが、その時は収穫されなかったかんぴょうの実がころがっていて、まるでバレーボール部員がボールを片付けないで帰った後の体育館のようだと書いた(24区 壬生~小山)のだが、今回はそれよりは小さくてソフトボールくらいの大きさだ。
このあと道の駅で地元でとれた野菜を売っていたのだが、たぶんこれだろう。
さて、この道は基本的に峠から日本海へ向かって下っているのだが、妙高山から流れ出た川がところどころで山肌を深く削っている。川を超えるためにはいったん深い谷底まで下りて、川を渡ったら再び上らなければならない。新しい橋が工事中のこの川を越えるために旧道を下ろうとしたのだが、たまたま通りがかった工事現場の人が「この道は途中で通行止めになってますよ」と教えてくれた。
というわけで無駄足をせずに助かったのだが、今渡っているこの橋もけっこう新しいと思う。建設中のあの橋は高速道路なのだろうか。橋脚の高さからこの谷の深さがわかる。
北陸新幹線が開業するまでは信越本線だった、えちごトキめき鉄道の関山駅に着いて、本日の宿泊地まで戻ろうとしたのだが、列車の本数が少ないので1時間以上待つことになった。ここは妙高山へ登る最寄り駅であり、駅前には“妙高山登山口”という大きな看板が立っている。駅には山に入ったまま行方不明になった人の写真が貼ってあり、何か情報を知っている人は連絡を、と呼びかけられている。後日、NHKの山番組で妙高山から火打山、焼山への縦走をしているのを見たのだが、ここで足を滑らしたらたいへんだろうな、行方不明になってもおかしくはないのだろうな、と感じるほどの険しい山道だった。
待合室でじっと待っているのもなんなので、駅前の酒屋さんで地元のワインと地ビールを買って飲んだのでありました。酒屋のご夫婦が「ここは、何にもないところですからねぇ」とおっしゃっていたのだが、こんなよそ者にもあたたかくしていただいてありがとうございます。
2024年9月