番外編 競馬場で走らんか!2
吾輩は馬である。名前はミヤジマショウユ。最近の人間界の映画やテレビドラマは、ヒット作が出るとすぐに「なんとか2」とか「かんとか3」とか続編が出る傾向にある。前作の人気に乗って楽をしようという、まことに安易、安直、安価、安心、安全な策で、まったく嘆かわしい。もっと真剣に創作してほしいものである。
さて一昨年、競馬場を走らんか!という拙文を書いたところ、好評であったので(自画自賛)続編である。
前走は千葉県の船橋競馬場であったが、今回は東京の大井競馬場。浜松町と羽田空港を結ぶモノレールから見えるところである。
吾輩はモノレールの車窓からこの競馬場を見るたびに、一度はこのコースを走ってみたい、そしてここで優秀な成績をあげればそのままモノレールで羽田空港国際線ターミナルに行き、そこから世界を舞台に駆け回るのだ、と壮大な夢を膨らませているのである。(注:馬はモノレールに乗れません。モノレール会社に確認したわけではないですが、たぶん。)
好天に恵まれ、まさに天高く馬肥ゆる本日、吾輩は「第1回競馬RUN in大井競馬場」に出走するのである。記念すべき第1回に出走できるのはこのうえない喜びである。開会式が行われている横でうろうろしている仲間がいるのだが、こいつはうまかせ君だ。今はやりのゆるキャラが競馬場にまで登場しているのだが、ゆるいというには少々目つきが陰険そうでこわいぞ。
レース前にライバルたちの動向を探るべく場内を歩き回っていると、おぉ、馬らしい馬もいた。先月神田明神で会った神馬のあかりちゃんが白くなってやってきたのか、と驚いたがそんなはずはなく、ポニーである。なかなかかわいいものだ(馬も厩務員さんも)。
ところで、うまかせ君やポニーと一緒にレースを走ったら、吾輩は勝てるのであろうか。うまかせ君は動きが重そうだが、もし中身が本格アスリートであればかなわないであろうし、ポニーはああ見えても一度火が付いたら猛然と走り出すような気もするので、手ごわそうな相手である。
船橋は1200mレースだったのだが、吾輩は砂コースの厳しさを嫌というほど味わって脚力のなさをさらけ出し、まさに馬脚を現したのであった。しかし、あれだけ苦しい経験をしたにもかかわらず、それに懲りることなく、今回はさらに距離の長い5000mレースに出走登録をしてしまっている。これほど学習能力がないのは、馬である吾輩の血統に鹿が混じっているからではないかと思う。
いよいよスタートするが、今日のレースは一頭ずつゲートに入るのではなく、500頭以上の馬が一斉にゲートを通ってうじゃうじゃと走るのである。これだけ大勢の馬が走るのは壮観で、まるで大河ドラマの合戦シーンを見ているようである。
前走は、柔らかな砂地に負けまいと興奮して早々に力を使い果たしたのが敗因であった。競馬中継風に言うと、折り合いを欠いて、かかってしまったのであった。まさに、やせ馬の先走りだったのだが、同じ失敗を繰り返してはならぬ。スタートと同時に若駒たちは元気に飛び出すが、馬齢を重ねておる吾輩は、彼ら彼女らを悠然と見送りながらマイペースで進む。
一周1600mのコースを3周+200mで5000m、走りにくいのは経験済みであるので、あわてずゆったりと力を温存して進む。最初の頃は仲間たちと楽しく談笑しながら進むグループもいるが、すぐにそんな余裕はなくなって皆黙ってしまい、ぜぇぜぇという息づかいと、ざくざくと砂を踏む音しか聞こえなくなる。スタンド前以外は応援の声も届かないので、静かなものである。
そうこうしているうちに早くも3周目の4コーナーを回って最後の直線!、いよいよ満を持してここからスパート!!。先行してばてた馬たちを大外から次々に抜き去って一気に先頭へ!!!(おわび:文章の一部に、事実と異なる表現がございます)。順位はともかく、余裕をもってゴールしたのである。タイムは33分10秒ほど。砂コースでこのタイムがどれほどのものかよくわからないだろうが、羽田から世界へ、の夢に程遠いことだけは確かである。
本日のレース内容を振り返ると、なかなか快適で良い走りであった。前走の失敗で砂コースには極端な苦手意識ができて、虎になりそうだったのだが(トラウマだ)、それも克服できてうまくいったのであった。
2013年12月