走らんか副社長
【番外編(連載133回)】

自粛中 いつまでも海の生き物

34.謎の大怪獣(分類不明)

某日、出張で宿泊したF市のビジネスホテルにて、仕事を終えて一息ついていたところ、ただならぬ怪しい気配を感じたので窓の外を見ると、夕暮れのビル街の上空に謎の大怪獣が。ひぇ~。
 どこから飛んで来たのかこの大怪獣、F市は海に面しているので、海の生き物に違いない。そう、ゴジラだってモスラだって海底や南の海から来たのだから。しかし、よく見るとこの怪獣なかなかかわいいではないか。怪獣ヤモリンと勝手に名付けよう。


35.イワシ(鰯)(魚類)

イワシは、はっきり言って嫌われている。家庭で調理するのがいささか厄介なのが理由の一つだと思うので、実際に調理した人に仮想インタビューをしてみよう。

「包丁で頭を落とそうとしたらイワシが悲しそうな目で私を見つめるものだから、手がプルプル震えて危うく指を切るところでした」(岩清水裁(いわし見ずさばく)さん)

「内臓を手で引っ張り出すのは気持ち悪いし、流しが血まみれのホラー映画状態になって嫌です。もちろん食べるのは好きですけど」(岩下ベル(いわし食べる)さん)

「手を洗ってもなかなか生臭さが取れないし、焼いたら部屋中が臭くなって家族から文句言われました」(多田見岩志(たたみいわし)さん)

最近は、切身ならまだしも、丸のままの魚を家庭で調理する人は減っていると思われる。なかでも、魚を好きでない人がイワシ料理をつくろうと思ったら、今あげた人のような感想を持つのもしょうがない。だから不人気なのか、量販店の魚売り場ではほとんどイワシを見かけない。
 いや、丸のイワシを見かけなくなっただけで、私たちはイワシを小魚のころからいろいろな形で食べている。正確にはマイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシと種類があるのだが、細かいことは抜きにして並べてみよう。

とれたてのシラス(イワシだけでなく小魚の総称だが)は丼にして食べるし、煮て干したら“ちりめんじゃこ”あるいは“シラス干し”に、面状に広げて干したら“たたみいわし”になって酒の肴にぴったりだ。もう少し大きくなったものを干すと“いりこ”や“煮干し”になる。“いりこ”と“煮干し”は同じものだと思うのだが、主に西日本で一般的に使われているだしは“いりこだし”、ラーメンのスープに使われると“煮干しだし”と呼ばれることが多いようだ。
さらにもう少し大きくなると、“目刺し”になる。目にひもを通して並べて干すとはなんとも残酷な加工方法だが、これも焼くと煙が出る欠点はあるが、酒の肴になる。もちろん、成魚になったイワシの刺身は言うまでもなくおいしい。いっぽう、洋食では油に漬けたオイルサーディンや、塩漬けのアンチョビがある。食に関するエッセイを多く書かれている平松洋子さんの最近の本に、缶詰のオイルサーディンを素手でパンにはさんで食べる人の描写があるのだが、いやぁおいしそうだ。またアンチョビは、見かけも味も日本の塩辛とそっくりで酒の肴にぴったり・・・(まったく酒の肴としてしかイワシを考えていないな)。

食べる以外では、私はやったことがないのだが、節分にイワシの頭をヒイラギの枝に刺して玄関に飾っておくと鬼が嫌って寄り付かない、という風習があるようだ。いくら嫌いだからって、鬼にも嫌われるとはいったいどこまで嫌われているのだ。

イワシの群れです

最後に、食材としてのイワシだけではなく、水族館にいるイワシについても書いておこう。これまであちこちの水族館に行ったが、もううん十年前に東京池袋の水族館でイワシの群れを見た時の驚きは忘れられない。珍しい生き物ではない、凝った演出がされているわけでもない、ただイワシの大群が水槽の中を泳いでいるだけなのだが、その美しさと迫力には“おおおっ”と言うしかなかった。

2022年5月