自粛中 絶滅しないで海の生き物
40.うなぎ(鰻)(魚類)
夏真っ盛り、土用の丑の日が近くなると、どの量販店もセールの目玉商品としてうなぎを売り出す。量販店だけでなく、普段はうなぎを扱っていない外食店舗も、牛丼店はうな丼だ、回転すし店はうなぎ握りだ、さあ食えもっと食えと大騒ぎだ。しかし、相手は絶滅が危惧されている生き物なのだから、そこまでしなくても良いじゃないか、そっとしておいてやれよ、と思ってしまう。
そんな土用の丑の日のTV報道でよく見るのは、老舗のうなぎ屋さんが繁盛している映像だ。店主らしい人が「うちの“たれ”は創業以来うん十年、一度も絶やすことなくつぎ足しつぎ足ししながら使っている秘伝のたれです」とおっしゃる。当社のような加工食品工場ではできない作り方だが、それこそが老舗の老舗たるゆえんで、昨日や今日開店したばかりの店では出せない味がそこにはある
二ホンウナギの生態はまだ完全には解明されていないが、現在までにわかっているのはこうだ。ウナギは太平洋の深海で産卵し、生まれた稚魚は黒潮に乗って北上する。その途中で獲られた稚魚(シラスウナギ)が養殖されて、やがて食卓にのぼる。難を逃れて無事日本に到達できたウナギは川で育って貴重な天然ウナギとなり、成長すると生まれ故郷の太平洋を南下して産卵する。
川と海を生涯で往復する魚としては鮭もそうだが、鮭はウナギとは逆に、川で生まれた稚魚が川を下って海で育ち、産卵期になると生まれた川に戻って卵を産む。
なぜ、ウナギや鮭は川と海を往復するのか、淡水と海水では体の浸透圧を調整するのもたいへんだろうが、理由はわかっていない。そして、なぜ生まれた場所に戻るのだろうか。ふるさとに帰りたいという帰巣本能があるのかもしれない。人の場合でも、若いころ故郷を離れて都会に出た人が、年をとるにしたがって故郷に帰りたい気持ちが高まる、というのはよく聞く話だ。では私はどうかというと、若いころ故郷を離れ、けっこうな年をとったのだが、故郷には出張で行くだけで、そこで暮らしたい気持ちは高まらない。これは、帰巣本能が発動しなくなった、つまり生物として退化して、ウナギや鮭にも劣る存在になったということなのだろう。
41.ヤドカリ(宿借)(節足動物)
ヤドカリは宿借と書くように、自分の大きさに合った貝殻を借りて住み、成長するにしたがって少しずつ大きい貝殻を見つけては引っ越しを繰り返す生き物だ。しかしこの場合の貝殻は、宿(家)というより、それを身に着けて動いているのだから、衣服に例えるべきではないだろうか。
人などの脊椎動物は、体を支えるために体の内部に骨格を作った。一方で、カブトムシやカニや亀は体の外側に固い殻を作った。ところがヤドカリは、どちらも面倒だ、骨や殻を自前で作ることにエネルギーを使うのはやめて他から調達しよう、と考えたのだ。この考え方は人と共通するもので、人は衣服をすべて自前で作るのはたいへんなので、その作業は専門業者にまかせて服は購入することにした。人が衣料品店で、これはちょっと窮屈だな、でもこれだと大き過ぎるし、と迷っている姿は、ヤドカリが自分に合った大きさの貝殻を探している行為とそっくりだ。そう考えると、ヤドカリはずいぶん進んだ生物なのだなと思う。
また別の見方をすると、貝殻は貝が死んだあとの廃棄物なのだから、それを活用するのは廃物利用だ。最近になって人類はリサイクルだ、リユースだ、SDGsだと言い始めたが、ヤドカリたちは、やっと今ごろ気が付いたかと上から目線で、しかし海底からの下から目線で人を見ていることだろう。
2022年8月