私の似顔絵
(辛亥新春、昭和58年に
描いてもらいました。)
会長コラムへようこそ。
天く、馬肥ゆる秋。
灯火親しむ頃、になりました。
食欲の秋でもあります。
今月は、“味”を味わってみましょう。
 
 
 
 「うーん、オイシイ」
 可愛いお嬢さんが、まんまるくあけた小さな口に、お鮨をひとつ、ほうり込む。いかにもおいしげに、少しは演技も入って、ニッコリ。
 最近のテレビのグルメ番組のパターンです。いかにも食欲をそそり、そんな店に足を運びたくなります。
 
 しかし、ちょっと気にかかることがあります。
 「味」の表現は、ほとんどが「美味しい」と「旨い」です。少ししゃれても、コクがある、厚みのある、といったところ。文字通り“筆舌に尽くし難い”ということでしょうか。
 因みに、うまい、おいしい、の意味を調べてみますと、
うまい― 美(うま)い・甘い・美味い。味が良いこと。
おいしい― 「いし(美し)」の中近世の口語形、「いしい」に、接頭語の「お」をつけたもの。“美し”とは、よい、好ましい、見事だ、殊勝だ等の意味から、味がよい、へと転化した とある。
となると、「うまい」「おいしい」とは親戚のようなものですが、語感としては、おいしいの方が上品でしょうか。いずれにしろ、私たちの舌に快い感覚を与えてくれるものが「美味しい」のですが、どうも美人と美味を定義づけるのは難しいようですね。
 
 ところで「うまい」味が万人に共通かどうかは、すこぶる疑わしいようです。同じ醤油でも関東と九州では異なるし、味噌はもっとローカル色が強く、さまざまです。
 
 味、味わう。勿論、口に含んで、舌の上にのせて味わいます。
その味の基本は、
  甘い(sweet)
  酸っぱい(sour)
  辛い(salty)
  苦い(bitter)
 さらに、日本で発見され普及したグルタミン酸類による、うま味(umamiで通用する)を加え、五味がベースです。
 これらの味が、味覚の受入れ器官である味蕾から脳に伝達され、“味”として感じるのですが、甘い感覚は舌の先、苦いのは下の奥の方が敏感というように、各味の舌の上での感受性は異なっています。
 
 
 そして、これらの味がうまくミックスし、対比され、相乗効果をあげ、微妙な味がつくられ、さらに、渋味、唐辛子のような痛覚を刺激する辛味も加わって、厳格な意味での味覚が生じます。その上に、コク・広がり・厚みといった表現しようのない感覚や、香りが味覚をより引き立て、いわゆる風味(flavour)となって、趣(ふぜい)を添えます。
 
 しかし、これだけでは“美味”を証明したことにはならないようです。
 さらに、硬軟、粘度の感じ、特に温度はおいしさに影響します。いろいろの食物の中で食べるに適した温度があります。例えば、温い飲食物としてコーヒーは70℃前後、かけうどんは60〜70℃、冷たいものでは、まずビールは10〜20℃、ジュースは10℃等々は、皆さん実感されるところです。
 
   食物名 適温(℃)
あたたかい食物 コーヒー 67〜73
牛乳 58〜64
みそ汁 62〜68
スープ 60〜66
汁粉 60〜64
かけうどん 58〜70
天ぷら 64〜65
冷たい食物 10〜15
麦茶(冷) 10
アイスコーヒー 6
牛乳 10〜15
ジュース 10
サイダー 5
ビール 10〜20
アイスクリーム −6
 
 次いでは、色、光沢等の視覚、見た目の良さがあります。色として、食欲をそそるのは、やはり赤、オレンジでしょう。トマト、柿の真っ赤な色彩は円熟を連想するからでしょうか。アメリカの学者が研究したところでは、「自然光、即ち太陽光線は、スペクトルで分解すると七色(虹の色)になる。スペクトルは、赤、黄、黄緑、緑、青紫と変化する。波長の長い赤からオレンジが最も食欲をそそる」とのことです。
 
 その次は、聴覚。
 煎餅をパリッと噛んだときの、快い音もまた、食欲をそそりますよね。
 
 最後に、いただくときの環境。食のT.P.O。
 まずは、雰囲気。素晴らしい景色を眺めながら、親しい友人とともに食事をするときは美味しさは増すし、凍えるような寒さには、熱いラーメンが似合います。
 また、それぞれ人には、育った食生活の歴史、環境があり、地方の食文化にも左右されます。
 
 最後には、何といっても健康であること。
 ちょっとした歯の不具合、心配事があってもおいしさは半減です。心身ともに健全であればあるほど、“おいしさ”はいや増します。
 どうか皆様、健康に留意され、味の世界を楽しんでください。
 
 私たち「宮島醤油」は、皆さんに「味」を提供しはじめて一世紀を超えました。食生活の向上とともに食の文化も変貌してきましたが、常に「おいしさ」を追求して参りました。
 私たちは、精選した原料をもとに、誠意を込めてつくったミヤジマの商品を店頭からご家庭にレストランへとお届けします。
 今後とも、ご愛顧の程を。
 
参考文献
 『味覚の探究』森枝卓士/河出書房新社
 『日本の食文化』平野雅章/中公文庫   
 
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