私の似顔絵
(辛亥新春、昭和58年に
描いてもらいました。)
会長コラムへようこそ。

明けましておめでとうございます。
平成16年は、甲(きのえ)申(さる)。猿年です。今回の会長コラムは、猿に因んだお話です。
 
 
  
 
 
 猿と云えば、動物園では子供たちの人気者。俊敏、かつ「獣の中で智にまさる」利口者として、物語にも度々登場します。
 猿蟹合戦では、敵(かたき)役としてやや損な役割ですが、西遊記の孫悟空は同僚とともに、三蔵法師のお供をして、様々な苦難を乗り越え天竺へ。
 また、身近なものとして、猿ぐつわ、サルマタ、サルスベリ等々、切りがないようです。
 
 猿に関する故事・諺を拾ってみると、どなたもご存知なのが、「猿も木から落ちる」でしょう。「弘法も筆の誤り」と同じく、上手だからと、自慢するな、油断大敵だ、との戒めの言葉です。
 しかし、猿が木から落ちたのを見た人はあまり聞きませんが、動物学者によると、もし高い樹から落ちたとしても、ひょいと本能的に途中の枝を掴む能力、云わば、セーフティネット的な能力は、ちゃんと備えているようです。
 
 人口に膾炙(かいしゃ)されている寓話のひとつに、「朝三暮四」「朝四暮三」の話があります。
 中国の春秋時代、宋という国に、猿つかいの狙(そ)公という人が、養っている猿に向かって、これからお前たちに『とち』の実をやるが、その数は朝は三つ、暮には四つとするよ、と云った。ところが、猿たちは牙をむき出して怒り出した。では朝四つ、暮に三つにしようというと、今度はすべての猿が、キャッキャッと大喜びをしたという。
 
 この寓話が教えることは、一日に三ヶと四ヶ、四ヶと三ヶはいずれも名実ともに変わらないのに、愚者は、そのときの感情で喜んだり、怒ったりする。
 賢者は、愚かな人たちを、時によっては思い通りに籠絡するものだ。統治者はこんなもんだ、警戒しなさいよ。―ということでしょうか。
 
 この寓話には、もうひとつ別の解釈があります。
 朝三暮四か朝四暮三か、いずれが是が非かを論ずる人々に対し、君たちが精神を労し、いくら口角泡を飛ばして検討しても、七は七なのだ。同じ結論に達するよ。こんな議論に終始するのは、猿たちと同じレベルだ、(萬物が)実在する眞相は一つなのだよと戒める。
 
 現在の日本経済は、デフレに悩む閉塞感を打開すべく、減税か、増税か、公共投資は抑制か、否かと議論が賑やかです。21世紀に入り、いよいよ重大な秋(とき)を迎えます。今は、3+4、4+3の世界で侃々諤々(かんかんがくがく)、口角泡を飛ばすより、この7を、10〜20へと伸ばすことへ、全力を傾注すべきではないでしょうか。
 
 
 
 
 参考文献
「荘子」 岩波文庫 /金谷治
「荘子」 朝日文庫 /福永光司
「列子」 明徳出版社中国古典新書 /穴沢辰雄
「動物故事物語」 河出書房新社 /実吉達郎