「去華就実」と郷土の先覚者たち

第1回 序

去華就実


この雄渾な書は、宮島醤油株式会社の本社応接室に掲げられているものです。右から左に「去華就実」と書かれ、添書に「為宮島大人 小笠原長生書」と記されています。小笠原長生(おがさわらながなり)は最後の唐津藩主・小笠原長国(おがさわらながくに)の後嗣で、後に宮内庁顧問官を務めた軍人、文人、書家です。この書は、明治末期、小笠原長生が弊社初代社長・七世宮島傳兵衞に与えたものです。

「去華就実(きょかしゅうじつ)」を読み下せば、「華を去り実に就く(かをさりじつにつく)」ですが、これは、「華やかなこと、華美なことに走らず、実質あるものに力を注ごう」ということです。更に敷衍(ふえん)すれば、「大切なのは表面でなく内実だ」という姿勢にも通じます。この言葉は弊社の社是(しゃぜ)として、今なお、宮島の全社員が身につけるべき根本精神とされています。

宮島醤油は、明治15年(1882年)6月1日、佐賀県唐津市水主町(かこまち)において、醤油・味噌の醸造所として創業されました。今年、2002年6月1日、120回目の誕生日を迎えます。人々の信用がなければ存続しえない食品製造会社が、こうして永い歴史を刻むことができたのは、質実な社風という伝統が弊社に伝えられてきたからだと思います。

120周年という記念すべき年を迎えるにあたり、改めて、社是である「去華就実」のルーツと、その言葉をめぐる郷土の先覚者たちの足跡に思いを馳せることは意義深いことであり、また、消費者の方々と共有したいことでもあります。そこで、今年約一年かけて、この言葉とその周辺をめぐる連載記事を掲載します。

2002年1月

執筆者 宮島清一